矢央の予想に反して、近藤と数人の隊士を残し土方達は先に宴の翌日に日野を出発する。

近藤は未だに絶えず押し寄せる人の相手と、更に隊士を募って翌日出発するそうだ。



「それじゃあ行ってくる。矢央、何かあれば姉達を頼れ」

「はい。土方さん、気をつけてくださいね」

「お前に心配されるほど落ちぶれちゃあいねえよ」

「…どうして素直に分かったって頷けないんですかねえ」


馬の上から見下ろす土方をムスッと嫌みを返せば笑い声が返ってくる。

その声を聞いていると怒る気も失せた。



「矢央」

「新八さん!!」


少し二日酔いらしい永倉は、矢央の頭にポンと大きな掌を乗せ苦笑いしていた。


「飲み過ぎですよ」

「だな。つい」

「つい、じゃないですよ…って原田さんもですか?」


永倉の背後からのそっと現れた青白い顔をした原田を見上げる。


この人達に緊張感というものはないのか。


「ああ。まあ、歩いていればそのうち治る。それよりせっかく出発するってのに雨たあな」


気分どんよりな原田は永倉の肩に腕を乗せ分厚い雲を見上げて溜め息をついた。

昨日の夜から強くなった雨のせいで、足下はぐちゃぐちゃで歩きずらい。


土方は馬に乗ってはいるが、殆どの者は歩きで移動の上この雨では、なかなか目的地に着くまで時間がかかりそうだ。



「だから今日先に出るんだろ。これだけの大所帯だからな、早めに行動しねえと間に合わないなんてことにならねえように。
それにこんなだけ足場悪ければ、近藤さん達も直ぐに追いつけるさ」


「まあ、あの人身動きとれなさそうだしな。俺達の士気が下がらねえうちに出発させたかったってわけね」


付き合いの長い二人には、土方の考えが何となくにも分かるらしい。


矢央にはあまり分からないので、さっきから二人の顔を交互に見上げるだけだった。



「兎に角、新八のことは任せとけ。ちゃんと生きたまま連れて帰ってくるからよ」


にっと八重歯を見せて笑う原田に「お願いします」と笑い返すと、不満げに原田を睨む永倉がいて思わず吹いてしまう。


「逆だろ逆。俺がお前を生きたまま連れて帰ってきてやんだよ」

「いやいや俺だろ。新八は無茶ばかりするからな」

「いや、それはお前だろ」

「どちらもです!!」



このままでは言い合いが終わらないと判断して、二人の間に割って入る。


「新八さんも原田さんも無茶ばかりするから、お互いに助け合って帰ってきてください」

「「……おう」」

「よろしい!じゃあ早く行かなきゃ、ほら鬼が睨んでますよー」


二人の背中を押してやると、確かに先頭から鬼ーーもとい土方が鋭い視線を向けていた。

早くしろと言いたいのだろう。