永倉の胸に顔を埋めていると、ふと視線を感じた。


そこではっとする。
そういえば宴の真っ最中だった、と。

この視線は言わずとも分かる、隊士達だ。



顔が上げられないーーーーーっ!!



皆に見られると恥ずかしいからと密着してくる永倉を制したというのに、話しについ夢中になって周りが見えてなかった。



「おらっ見せもんじゃねえんだぞ!見んな見んな!!」


そう言ってシッシッと犬でも追い払うような仕草をした永倉のおかげか、グサグサと突き刺さっていた視線は消えた。


恐る恐る顔を上げ周りを見回せば、土方と視線が合い「馬鹿」と口元が動いたのが見えて居たたまれなくなった。



「こんなに人がいたんじゃ迂闊なことできねえな」

「……なにをする気ですか」

「いや別に」


見上げると視線を泳がせていて怪しさ満載だ。



まあいいか、と。永倉の胸に手をあて身を起こすと矢央はずっと思っていたことを口にする。




「あの新八さん…その、私に新八さんの物を何かくれませんか?」



本当は少し躊躇した。
大切な人から何かを貰うと、何故か決まってその人は亡くなってしまう。

ただの偶然なのだろうが、藤堂と坂本に貰ったものは今や形見となってしまっている。


だから永倉の物を貰うのは戸惑うが、それでも愛した人だからこそ何かほしいと思った。



もしこのまま永遠の別れとなってしまっても、何か思い出になる彼の物はやっぱり持っていたい。



「俺のなー…、って言っても、今持ってるもんなんてこれくらいだな」


永倉が取り出したのは、髪が長かった時に使っていた結紐。

坂本に貰った派手な装飾品がついたような結紐ではなく、濃い深緑の色をしたただの結紐を見て永倉は「これじゃあんまりか」と、他に何かあったかと首を捻った。


が、矢央は永倉の拳に握られたままの結紐を、そっと手を開かせて受け取ると、それを両手でしっかりと握りニコッと微笑む。



「これがいいです。ずっと新八さんの傍にあったものだから」


いつも矢央の少し前を歩いていた永倉の後ろ姿を見ていたことを思い出した。


少し癖のある襟足部分を結っていて、出会った頃はその先っちょがまだ短くて結う意味があるんだろうかと疑問視していたんだった。


「本当にそんな使い古しがいいのか?」

「使い古しだからこそです」



愛おしそうに先日まで愛用していた結紐を握り締めニコニコと微笑む矢央を見て何とも言えない感情が湧き起こる。