「前にも言ったけどよ、俺はお前に笑って出迎えてほしいんだ」


浮かない顔をする矢央の頭を自分の肩に寄せてやり、優しく髪を梳いてやる。

こうしてやると矢央は嬉しそうにするので、慰める時には癖になりつつあった。



「俺は剣に生きると決めた時から、死ぬのは戦場だと決めてる」


ビクッと細い肩が揺れる。


でも構わず続けた。


「此処にいる奴らの殆どは覚悟を決めて戦に向かうんだ。故郷に家族や恋人を残してる奴だっているだろう」


永倉も矢央もわーわーと騒ぐ原田を見る。


まるで不安を取り除くように無理に騒いでいるように感じた。



「その家族や恋人も覚悟を持ってあいつらを送り出したはずだ。だからな、今の俺は必ず帰ってきてやるとは約束できねえ」



徳川のために命をかけようとは思わない。

近藤のために戦おうとも思ってはいない。


だが自分の信念は貫き通したいし、大切な仲間をこれ以上失うのも嫌だった。

だから永倉はまだ此処で戦う意味はあると思って戦に向かう。


しかし永倉も薄々気付いていた。
これからの戦で、今の自分達は生き残る確率が低いことも。

だから死を覚悟しておかねばならないと。



「無駄死にしてやるつもりはねえ。出来るなら勝って帰ってきてやるさ。だかな、もし…もしも俺が帰って来ない時は……」

「待ってます!」

「矢央…」


肩に顔を埋めたまま矢央は言う。



「私は待ってる。新八さんも、近藤さんも土方さんも皆が帰ってくるのをずっと待ってる。
確かに送り出した人も覚悟を決めてそうしたかもしれないけど、本心は帰ってきてほしいと思ってますよ。どんな状態でもいい、最悪死んでしまっててもいいから帰ってきてほしいと」



肩口から顔を上げ、永倉を見上げる双眸は真っ直ぐすぎて眩しい。

惚れた女は弱いようで、とても強かった。







「わかった。待っててくれ。
それと帰ってきたら、共に暮らそう」