日野に立ち寄った次の日、近藤は隊士達の志気を高めようと宴を開くことにした。


今や故郷では英雄である近藤の周りには次から次へと人が集まり、鼻が高くなった近藤を隅で見ながら愚痴る男達がいることを知らない。



「そりゃあよ故郷に来たら多少は羽目を外したくなるもんだが、こんな時間食ってる間に敵さんが甲府城を落としちまったらどうする気かね」

「んなこと、今の近藤さんは何も考えてねえんだろ。ほら見てみろよ、あのデレきった面、ああ情けねえ」

「しかし、あの人に惹かれ此処でも隊士が集まったのもまた事実。そして、そのバラバラな隊士達を纏めるための宴だ。多少目を瞑ってやらねばならないだろう」




賑わう隊士達を見ながら斉藤が言うことにも一理あると、永倉と原田は何杯目かの酒を飲み干した。









あー忙しい忙しい。

隊士でない矢央は宴には参加せず、その宴のために走り回っていた。

数が多いので、出した料理や酒が直ぐに無くなってしまい、また新しいものを持っていく。


それを何度か繰り返していれば、のぶが休憩しておいでとおむすびを渡されので庭の見える縁側に腰掛け暫しの休息をとっていた。



「ほんとよく飲む人達だよねー」


よく塩がきいているおむすびを頬張りながら、今も絶えず賑やかな声がする広間の方を眺める。


それでも昔の新選組に戻ったような気がして悪くなかった。


昔は大きな成果のあとは、近藤が労いのために宴を開き隊士達は喜んだ。

絶えず聞こえていた笑い声が、今のそれと重なると嬉しさと寂しさが混ざり複雑なものだ。



「矢央さんこんなところにいたんですか」

「ん。そうひしゃん」

「ふふ。お米ついてますよ」


自分の口元を指でつつきながら、沖田は矢央の隣に座る。



「体調どうですか?」


おむすびを食べ終えてお茶を飲みながら、隣にいる沖田の様子を伺う。


つい先日、矢央は沖田の病を和らげてあげた。

それからの沖田は今までが嘘のように元気になり、近藤を驚かせると満面の笑みで矢央に「やりましたよ!」と報告にきた。


その代わりに一日胸の痛みと喉の違和感に苦しめられた矢央だったが、これ以上に辛い状態で戦ってきたのだと思えば耐えられた。