「よく帰られましたね。歳三」



近藤達は甲府へ向かう途中にある多摩へと立ち寄った。

近藤や土方達にとって懐かしき故郷である。


そして今は土方の姉の嫁ぎ先である日野宿佐藤彦五郎の家へやって来ていた。

立派になって戻ってきた二人を土方の姉のぶが出迎えた。


のぶは土方に似ていて意識の強そうな双眸をししゃんと背筋の伸びた美しい女性であったが、幼い頃に母を亡くした土方にとって母親代わりでもあるのぶの存在は土方にとっては少々厄介らしい。


「ところで歳三。戻って来たのなら、何故直ぐに私に顔を見せに来ないの?」

「いや、義兄さんには挨拶してきたぜ」

「彦五郎さんには、でしょ。私にはまだでしょうに」




玄関先で仁王立ちした女版土方がいた。


笑顔なのに背後に黒いものが蠢いている。



ああ厄介な人を後回しにしてしまった、と土方が内心溜め息をつけば、すーっと白い掌が頬に触れた。


両手で両頬を包まれ、なんだと眉を寄せるとグイッと頬を引っ張られた。




「いっーーいでででっ!!なにすんだっ?」

「うん。元気そうね」

「いやいや、確かめ方間違ってねえか?」


頬をさすりながら土方は愚痴る。

そこへ助け舟がやってきて、助け舟こと近藤はのぶに挨拶をして漸く家の中に入ることが出来たのであった。