「当たり前です。近藤さんが頑張っているのに、私がこんなところで寝ているなんて…」


立っているのさえ辛いはずの沖田を奮い立たせるのは近藤への一途な想いだ。

いつでも近藤、近藤と楽しそうに語る沖田を見てきたのだからその気持ちは痛い程分かっていたが、それでもやはり……。



「…っごほっ!!ごほっごほっ!!」

「ほら…やっぱり寝ていないと…」


胸を押さえ苦しそうに咳き込む沖田の背中をさすりながら、矢央の表情も暗く曇っていく。


説得していながら、自分だって本音は沖田と同じなのだ。


これ以上迷惑をかけられないからと、新選組を離れた矢央だって本当は永倉達の傍にいたい。


足手纏いになっているのも分かっているが、それでも本音では傍にいたい。



「ごほっ…はあはあ…。もう、置いて行かれるのは御免なんです」


へたり込んだ沖田は、ボーッと畳を見つめていた。


「近藤さんからすれば子供な私は、昔から置いて行かれたくなくて…近藤さんの力になりたくて頑張ってきたんだ。……なのにっこんな大事な時に頑張れなくてどうするんですかっ?」


折れてしまいそうなくらい細くなってしまった腕で、悔しいと何度も畳を殴る。

吐き出すものは辛い咳と苦しい言葉ばかり。


「誰にも負けないように…強くなったんだっ!そして今でも誰にも負けるつもりもないっ。
だから私は行くんです…止めないでください」

「止めるなって…そんなの無理に決まってます!」


立ち上がる沖田の着物を掴み行かせまいと踏ん張る。


「貴女が無理だと決めつけるなっ!無理かどうか判断するのは…っこほっ…ガバッ!!」



ーーーー判断するのは私自身だ。



「総司さんっ!?」

「うっ…ガバッゴホッ!!」


広げられた掌にドロッとした血が溜まっているのを沖田も矢央も無言で見つめた。


「…くそっ…くそくそくそっ!!」



沖田らしくない態度に、矢央は握っていた着物から手を離してしまう。


その隙に痛む身体を諸ともせずに沖田は入り口へと這って進んだ。


その姿を唇を噛んで視界に捉え、言いようのない痛みが胸を襲った時、沖田の戸へと伸ばされた手がピタリと止まりゆっくりと地へと落ちていく。


グッと握られた拳は震えていた。






「こんなこと頼んでは駄目だと分かっています。でも…死にかけの男の願いを聞いてくれませんか」




沖田は顔を上げない。

そして矢央の俯いた頬に涙が流れる。