そして矢央は、新撰組から離れて沖田の下へとやってきて早一週間が経とうとしていた。

病人でも怪我人でもないのに、ただ世話になるのは性に合わず此処でもまた雑用などを手伝う毎日を送っていた。



「総司さーん、ご飯持ってき……って、なにしてるんですかっ?」



沖田の部屋に食事を運んで来た矢央は部屋に入るなり、その光景に驚き目を見開いた。


そして沖田は矢央に見つかり、あからさまにしまったという表情をしている。


何故なら、きちんと着物を着て腰には刀を差し、任務に着く時にだけ結い上げる髪も結っているからだ。

どう見てもこれから出掛けて行く装いだった。


「総司さん…どういうことですか?」

「えっと…これは、あはは…」

「笑っても無駄です。総司さんは寝ていないと駄目なんですよ」


机の上に食事を置いて、腰に手を当てて沖田を見上げるが、その沖田の表情は苦虫を噛み締めたように歪んでいた。


もしかしたら先日近藤を訪ねて来た土方と、その後近藤が新選組に戻って行ったことと関係あるのかもしれない。



「昨日、近藤さんが来てくれたんです…」


静かに語り始めた沖田。


窓に寄り空を見上げる顔は切ない。



「新選組から甲陽鎮撫隊と名を改め、甲府へと向かうそうです」


その話しなら矢央も永倉から聞いていた。


新選組は甲陽鎮撫隊へ、そして近藤は名を大久保大和、土方は内藤隼人へと名を変えたこと。


そして江戸制圧を目指して東海道、北陸道に別れ新政府軍は行軍を始めた。


その中の土佐・板垣退助率いる隊は幕府天領である甲州を制圧するため三千の兵を連れて甲府へと進んでいた。


それを押さえるように近藤に命じたのは勝海舟であった。


永倉はその時の話しを心底うんざりしたように
ボヤいていた。


『なにが大名だ。永倉君達もそれなりの待遇が待っている。私のために頑張ってくれ…。はっ、ふざけんなっての!』


そんな風に言っていた永倉を宥めるのが大変だったなと思い出しながら、今は沖田だと気を取り戻す。



「まさか総司さん付いて行く気ですか?」



聞かなくても分かる。
だから着替えているだろうから。