土方を訪ねると、文机に向かっていたが直ぐに書類から顔を上げ矢央達を迎え入れた。


土方の前に座ると、永倉はその矢央の隣に腰を下ろした。



「さて、話と言うのはだな。矢央、お前もう男の格好をするのは止めろ」

「え?」



土方は永倉に一度視線を向けると、永倉は頷き部屋の押し入れを開ける。

そこから一つの包みを抱え戻ってきた永倉は矢央の前へそれを置いた。



「これは?」


二人を交互に見たあと、もう一度その包みを見下ろした。 


「女物の着物だ。お前はもう新選組隊士じゃねえし、そろそろ女に戻る頃合だと思って用意した」

「…っっ」


言葉を無くし土方を見て、矢央は確信した。



ーーーもう此処までなのかと。



女に戻れとは、そういう意味なのだろう。


土方はもう、矢央をこの先の戦場に連れて行く気はないと。



「この着物はな、永倉がお前のために選んでくれたやつだ」



身体を楽にした土方は煙管を加え、紫煙を吹き出すと暮れ始めた空を見つめた。








「土方さん、あんたに頼みがある」



永倉は矢央と想いが通じあった次の日、土方と話をした。


それは矢央の縁談は無効にしてほしいことと、矢央を女に戻してやってほしいというものだった。



「俺が幸せにしてやりてえの勿論だが、あいつがそれを望んでねえなら無理意地はしねえでやってくんねえか。
それと、そろそろあいつを女に戻してやってほしい」

 
新選組にいる間、矢央はずっと男装を余儀なくされた。

男所帯の中で年頃の女子が暮らすには一番良い方法だったが、やはり矢央は女を隠せていなかった。


きっと何人もの隊士が矢央は女子だと気付いていたことも土方達は知っていたが、それでも男のふりをさせていた方が新選組として都合が良かった。



「俺は元々あいつが新選組に入るのは反対だった。反対したのは、やっぱりどう見たってあいつは女でよ。守ってやらねえとなんねえ存在だって、傍にいると思っちまうんだよ」



本当は矢央に男の真似なんてさせたくない。

刀も持たせたくないし、戦場にも連れて行きたくなかった。

けれど新選組に着いて行くと決めたのが、他でもない矢央本人だ。


「あいつが気持ちの整理がつくなら、女に戻して安全な場所で暮らしてほしいんだよ」