「良かったのか…あいつにいてほしかったんじゃねぇのか?」


矢央が走り去って行くのを見てから、土方は山崎の下へ戻って言った。


山崎は力なく笑い首を振るう。



「…あいつの心残りにしたあない」

「じゅうぶんなると思うがな。あいつは、お前が思う以上にお前を慕ってたからな」



ほんまに?と、僅かに目を見開く山崎。


ドカリと腰を下ろした土方は気付いていた。


山崎もまた矢央に惹かれた一人だろうと。



「何か迷うことばあれば、よく山崎を知らないかと聞いてきてな。任務で出てると言えば、俺ばかり山崎を使いすぎだと怒ってたな」

「ははっ…任務なんやから…しゃーないやん…」

「だよなあ。キレる意味が分からなかったぜ。まあ、自分が頼りたい時に、俺が任務を任せちまってるもんだから八つ当たりなんだろ」

「…知らん…かった…」




その矢央の姿を想像して嬉しそうに微笑む山崎。


しかし直ぐに辛そうに眉を寄せた。



「副長…最後まで共にできず…すんません」

「………」

「お世話に、なりました…」

「世話になってたのはこっちだ」




ほんの数秒続いた無言、互いの息遣いだけしか聞こえない。




山崎は瞼を閉じスーッと長く息を吐き出し、そして暫くして静かに息を引き取った。





「今まで…ありがとよ」




山崎の白い頬にくっきりと一筋だけ涙の痕がのこっていた。










新選組 諸士調役兼監察 山崎丞
江戸へ向かう富士山丸の中でその命の終わりを迎えた。


新選組の活躍に彼の力なくしては語れない。


翌朝、近藤を始め隊士等全員で山崎の遺体を水葬するため外へと出て見送った。

その中に瞼を赤く腫らし、泣き過ごしたのが見てわかる矢央の姿があったが、山崎の遺体が海に沈むのを見ながら矢央は笑顔で手を振っていた。



泣き笑いのその笑顔は見る者皆心を奪われる。













「山崎、やっぱりお前はあいつの心にしっかり残っちまってるよ」





浅葱色の空に語る声は風の音にかき消された。