潮風に当たった涙は一向に乾かない。


後ろを通る人がおかしなものを見るように通りすぎていくが、どうでもよかった。


今はただ別れを受け入れるのに必死だった。





山崎は自身の死を受け入れていたのだろう。

だからこそ昔話なんてものを語り出した。


そして自分の死に際を見られたくなかったのか、矢央に部屋を出るように言った。


別れの言葉は言わなかった。


お互いに、明日はもう会えないと思いながら笑顔で別れた。


皆が好きだと言ってくれた笑顔で、山崎と最後に交わしたのは「少し…寝るわ」と、明日があるかのような言葉で、矢央は「おやすみなさい」と、山崎の手をギュッと握って言った。







『お前なあ、包帯の巻き方もわからんと、よお救護隊になろう思うたな?』

『は?副長とお前、どっちの味方かやて?
んなの決まっとる、副長や!!』

『なあ、お前好いた奴はおらんのか?
おるんやったら女の幸せ考えてもえんとちゃう』

『まあた戻ってきたんかいな?
しゃーないから、また面倒みたるわ』







「……うっ……」


山崎と交わした言葉が次々に蘇ってくる。


鼻の奥がツンとして、頭がガンガンと鐘を打った。



「…山崎さ…んっ…」



その声に、もう彼は応えてくれない。


それでも何度も何度も名前を呼んだ。