その翌日、矢央達が乗った富士山丸が出航。


晴れ渡る浅葱色の空の下、浮かない顔をした矢央が突っ伏して唸っていた。


「酔ったのか」

「ぎもぢわるい~」


生まれて二十年、初めて大きな船に乗った矢央は船酔い真っ最中である。

そういえば同じ大坂で、芹沢等と船に乗ったことがあったが、それとは比べられないくらい大きな船だ。

揺れも大きくて激しい。



「お前何しにきたんだよ」


土方は呆れて額に手を当てる。

負傷者の世話をしたいから順動丸ではなく、富士山丸に乗ったはずの矢央が健康体ではなくなってどうする。


「うっっ!!」

「吐くなら吐け!間違っても飲み込むなよ?」

「んっ!!」


ーーーーゴクンッ。


「…………」


せっかく桶を持ってきてやったのに…と、無表情で矢央を見下ろす。

その視線を感じながら、喉の不快感にまた一度気持ち悪さが戻った。








富士山丸が大坂を出て二日目の朝、沖田の下へもうすっかり顔色の良くなった顔を覗かせる。


「そーおーじーさん!起きてますか?」

「ふふ。ええ起きてますよ…こほっ…すみません。どうしました?」


薄暗い船内で灯りに照らされた沖田の顔は青白い。

うーんと、考えた結果、矢央は沖田に羽織を二重に羽織らせると腕を引き外へと連れ出した。



「人間っていうのはお日様の下でお日様の光を浴びて元気にスクスク育つもんでしょう!」

「これ以上育たなくてもいいんですけどね」


背の高い沖田を見上げるも苦笑いしている。


釣られて矢央も苦笑いを浮かべると、船の隅に身を寄せ海を眺めた。



「ごめんなさい。本当は寝てなきゃ駄目なんだろうけど、船の中ってジメジメしてるっていうか暗くて嫌っていうか…。
少しは外に出て美味しい空気吸わないと、気分まで滅入っちゃうでしょう?」
 
「そうですね。んーっ、風が気持ちいいなあ」


腕を上に上げて背伸びする沖田。

沖田の長い髪が潮風に靡く。