「もう傷はいいのか?」


すっかり傷が塞がった矢央は忙しく動き回っていた。

怪我人の手当てに食事の支度、相変わらずな仕事しか出来なかったが、それでも何もしないよりは気が晴れる。


そんな矢央を呼び止めたのは、最近はゆっくり話すことも出来なくなっていた土方である。


「はい。たまに痛みますけど、傷は塞がってます」

「そうか。なら良かった」



矢央は首を傾げた。

なんか土方の様子が変だ。



「矢央。俺は刀がものを言う時代は終わったと思っている」


外を見詰める土方の横顔をソワソワしながら観察する。


何が可笑しいのか?


「あんな戦い方を見せられりゃあな……」


ふっと、切なげに微笑む土方。


「土方さん…やっぱり疲れてます?」


何となくだが沖田の言う通り、さすがの新選組の鬼副長である土方も疲れが見え始めている。

隊士の前では疲れを見せない土方も、矢央の前では一人の男としてそこにいるようだ。


「…かもしれねぇな。近藤さんから新選組を預かっていたのに、なんの結果も残してやれてねえ」

「うーん、よくわからないけど。それって土方さんのせいなんですか?」


この戦は新選組だけでやってるんじゃない。

新選組ですら、命を受けて戦っているのだから、全てが土方のせいではないだろうに。


「敵に背を向けることを許さなかった俺が、おめおめとこんなとこまで逃げてきちまって…ざまあねえ」

「ねえ土方さん」


空から矢央へと視線を移すと、にこっといつも通りあどけなく微笑む矢央がいて、不思議と心が落ち着いていく。


「はっきり言って戦は好きになれません。
どちらが勝とうが負けようが、私はただ大切な人が傷つかないでほしいなって思うだけです。
だから私に出来ることはやります。土方さん達、無理ばかりするから、私がしっかり面倒みますからね!」


てなわけで、これ食べてください!
と、目の前に差し出さた握り飯を見下ろす土方は穏やかに微笑んでいる。


「餓鬼から一気に成長しやがったな。母親か」

「誰が母親ですか。そんな風に眉間に皺を寄せた可愛げのない息子なんて嫌です」


そう言えば土方に笑われた。

あの土方が腹を抱えて笑っていることに驚きが隠せない。