そのあと暫く互いに言葉を発しなかった。

昔はくだらないことで盛り上がっていたような気がするのに、今は口を開けば悲しいことばかりで何を言えばいいのか分からない。


どれくらい時間が経ったのか、矢央はいつの間にか眠ってしまっていたようで、気付くと部屋に灯りが灯っていた。



「…総司さん起きてます?」


隣に声をかけて身を起こしたが、どうやら沖田も眠っているようだ。

起こすのは悪いので、静かに布団から出ると隣の部屋へと向かった。



そこにも怪我人が寝かされていて、そのうちの一人を捜してキョロキョロと視線を回す。


するとこちらも眠っているらしい山崎を見つけ傍に寄った。


山崎の隣にそっと腰を下ろし、額に置かれている布を取ると側にある水桶に布を付け水気を絞ると、また山崎の額に乗せた。


どうして大人しく休んでくれなかったのか。


「山崎さんのバカ…」


熱が高いのか呼吸が荒い。

こんな山崎を見ていたくないから、あの力を使ったのに。


「ほんとバカ…」

「…うっさいなあ。なんやねんさっきから」


うっすら開いた瞼。
熱に浮かされた瞳が矢央をとらえる。


「無茶しないでくださいよ…」

「ンなこと言うとる場合か。でも、悪かったな…お前にも傷を負わせたっちゅうのに、こうして寝込んでもたら世話ないわあ」

「私のことはいいんです」


ギュッと膝の上で握られた拳を見る山崎。

それからゆっくりと視線を上げ矢央の顔を覗き込む。



「お願い…いなくならないで…」


山崎も井上のことは聞いて知っていた。

親しかった誰もが井上の最期を見ていなくて、矢央は自分のせいで井上を死なせてしまい、そして最期の言葉を託されたことが辛いのだろう。

どんなに強くなっても、大切な人の死を乗り越えるのはそう簡単なことではなかった。



「分かっとるから、もう泣かんといてくれ」


そう言うと山崎は、重くて仕方ない瞼を綴じた。