そして旧幕軍は淀城で戦局を立て直そうと考えたが、淀藩は頑なに門を開けようとしなかった。

淀藩は官軍となった新政府軍に恭順の意を示したのだ。


永倉が思っていたよりも早く新政府軍に寝返る藩が出てしまい、行き場を失った旧幕軍は男山、橋本方面へと撤退を始めた。




ドドーンッッ ドドーンッッ


「まだ撃つな!敵を出来るだけ引き寄せてから撃て!!」


土方を追ってやって来た市村と矢央は、砲撃隊へ指示を出していた井上を見つけ駆け寄った。


「矢央君っ、まだこんなところにいたのかっ?早く土方さんの所へ行きなさいっ」

「はあはあっ…源さん、新八さんは此処へ来ましたか?」


殿を務めていた永倉達といつになっても合流できず不安顔で井上を見上げる。

しかし井上は首を左右に振ったので、来た道を振り返り一歩足を踏み出した。


「そっちは危険だよっ!永倉君なら大丈夫だ、君を残して死んだりなんかしない!」

「でもっ、さっきから誰に聞いても見てないってっ」


掴まれた腕に爪を立てる矢央。

永倉を探しに行こうとする矢央の頬に痛みが走った。


「……っっ」


井上に頬を叩かれ唖然とする。


「永倉君は仲間を、君を守るために殿を務めてるんだ!それを台無しにするようなことをするんじゃない!!
良いかい、よく聞きなさい。永倉君だって出来ることなら君の傍にいてやりたいはずだ。 それでも、彼には組長として隊士を率いる役目がある。
だから君を出来るだけ安全な場所へ行かせようと頑張っているだよ?」

「…うっ…」

「君も彼の力になりたいと思っている気持ちも分かる。だが勘違いしちゃいけない…この戦場で君が出来ることはたかがしれてる」


グサッと胸に井上の言葉が刺さる。

やはり井上も足手まといだと言うのだろうか。


しかし見上げた井上の顔はとても穏やかだった。