翌朝、幕軍は淀城下から鳥羽伏見方面へ反撃を開始した。


新選組は会津藩と共に行動し、鳥羽街道を北上しながら戦い一時戦いは旧幕軍優先かと思われた。




「副長!伏見方面で戦っていた幕軍が退却を始めたもよう!!」

「なんだとっ!?どうりで圧され始めたわけだっ」



幕軍が敗走したために新選組は側面から攻撃を受けることとなり、退却することになった。


旧幕軍が負けたのには一つ理由があった。


薩長軍と戦っていた旧幕軍への多くが薩長軍の陣頭に錦の御旗が立てられたのを目撃したのである。


それを見た者は覇気を失い、それだけではなく自分達が賊軍になったという事実に新政府軍に楯突くことを躊躇う輩まで出る始末だ。



「あの旗って、そんなに効果があるんですか?」

「あれを掲げるということは天皇陛下の命を受け戦っている証だ」



富ノ森まで退却した新選組は、これからの作戦を練るために土方が忙しく働いている。

それを近くの木の根下に腰を下ろし見詰めながら、状況が把握出来ずにいる矢央へ斉藤が教えてくれた。


「つまり今じゃあっちが官軍で、こっちが賊軍ってわけだ。…はあ、やってらんねぇな」


会議を抜け出してきたらしい原田が頭をかきながら盛大な溜め息を吐いた。


「これじゃあっちに寝返る奴等も出てくるかもな」

「それはそれだ。我々は我々の役目を果たすのみ」


永倉の愚痴に斉藤はあっさり言い返した。


確かにその通りなのだが、相手は新兵器を用いて攻めてきているのに対し、こちらは剣が殆どで、伏見奉行所での戦いの記憶が新しい永倉にとって、この戦に不安が隠せないでいる。










そして五日。
この日も新選組は戦い詰めだった。

最新銃の前では新選組の力は何の役にも立たなかった。


後退しながら戦う新選組は、次々に仲間が倒れて行くのをただ見ることしかできず、この時の悔しさを忘れる者はいないだろう。



「矢央、此処は危険だ!下がれっ!鉄っお前は矢央と一緒に土方さんの所へ行けっ!」


殿を務めている永倉と原田の隊は、退却を始めた仲間達に危険が及ばないように必死に戦っていた。



「新八さんっ、私も残りますっ!戦います!」


市村に腕を掴まれ引っ張られるのを踏ん張りながら砲撃や銃弾が飛び交う中を戻ろうとした矢央。


「足手まといになりたくねぇと言ったのはお前だろ!!」


ドドーンッッ!


「でもっ!!」


ドドーンッッ!バンッバンッ!


「鉄っ!ボサッとしてねぇで担いででも連れて行けっ!!」

「は、はいっ!!っていうわけで失礼します!」


剣が届く範囲内の敵を倒しながら矢央を託された市村は、ガバッと矢央を担ぎ上げると土方のいる方へと駆け出した。


「ちょっ!新八さぁぁぁんっ!!」


爆霧に包まれ見えなくなった永倉に手を伸ばす。


置いて行くのは自分の方なのに、こちらが置いてけぼりを喰らったように悲しかった。