矢央の表情は浮かない。


永倉と漸く想いが通じ合っても、二人が傍にいるための障害が次々に起こるような気がしてならない。


「好きだって言えたことに後悔はないんです。
もうこのまま会えないかもしれないって思ったら伝えずにいられなかった。
だから言えたことに後悔はない。ないけど…私が新八さんの傍にいていいのかは分からないんです」


未だに迷う。
彼のこれからの未来に自分が深く関わることを。


何もかも関係なく、ただ好きだと言えたらどんなに楽だったろうか。



「矢央さんって、頑固者ですねー」


間延びした声に首を傾げた。


「出会った頃からそうでした。何でも自分で背負って全部抱えて、辛くても我慢我慢我慢。
今まで頑張ってきたんですから、そろそろ我が儘になってもいいじゃないですか」

「我が儘…」


沖田の言葉を復唱する。

矢央的には沢山迷惑をかけ我が儘も言っていた気がしていたが、どれも沖田等にとっては大したことはなかった。

だから心から矢央の幸せを願うのだ。


そろそろ自分のために生きてはどうかと。



「どうとでもなりますよ。自分自身がちゃんとした誠を持っていれば」

「……ありがとう、総司さん」





ほんの少し靄が晴れた。

窓の隅に見える満月を見上げながら思う。


この満月を彼も今頃見ているだろうか。


そして、もう一度共に見ることはできるだろうかと。



直ぐそこまで迫る大戦の火蓋が開けられんとしていた。

新選組の行く末も、未来から来た矢央の行く末も、まだ誰も知らない。