大坂についた矢央は与えられた部屋の窓枠に腕を乗せ闇夜を照らす大きな満月を見上げていた。

灯りもない部屋なのに満月の明かりだけで意外と部屋は明るい。



「矢央さん、風邪ひきますよ」

「総司さん?って、総司さん寝てないと駄目じゃないですかっ」


療養するために此処へ来たのに部屋を抜け出してきた沖田を見て、慌てて開けていた窓を閉めた。


部屋に灯りをつけて、腰を下ろした沖田の下へ寄る。



「少しくらい大丈夫ですよ。それより、良かったですね」

「え?」

「永倉さんと想いが通じたんですよね」


驚く矢央に、優しく笑みを向ける。


「薄々…というか、ほぼ確信に近いですが、気付いてました。貴女が好きなのは永倉さんだろうと」

「あ、えっと……」

「多分、矢央さんが気付くより先に分かってました。だから、私のことは気にしないで素直に喜べば良いんですよ」



お茶をいれて差し出すと、白い湯気がゆらゆらと立ち上る。

それと同じ動きで沖田の灯りに灯された影も揺れていた。


「貴女が笑ってくれると、私も嬉しいから」

「総司さん…ありがとう」


告白してくれた沖田。
その返事すらしていない自分のことを攻めもせずに、祝福してくれる。

申し訳ない気持ちと有り難い気持ちが混ざり合い、複雑でどちらの感情か分からない涙が頬を伝う。


その涙を細い指が掬い取る。



「笑ってと言ったばかりなのに。まったく放っておけない人だ」

「ごめ…なさい」

「それで浮かない顔なのは、やっと素直になれたのに傍にいられないから…でしょうかね?」


泳ぐ視線の隅に沖田の複雑な笑みが見える。

涙を拭っていた指は、矢央の髪と髪の隙間に差し込まれた。

サラサラと指の間から流れ落ちる黒髪。


「きっと貴女なら大丈夫です。どんな状況であっても、永倉さんの傍で貴女なら生きていける。
そして永倉さんも、貴女をきっと守ってくれる」

「総司さん…」

「私だったら、どんなに危険な状況であっても愛した人の傍にいたいと思う。 私は我が儘だから、新選組も好きな人も両方手放せない」

「迷惑…じゃないかな?」


ぐっと唇を噛み締める。


「迷惑?永倉さんがですか?」


別れ際“迎えに行く”と言われていたじゃないですか。


「だって、し…新八さんが一番私を新選組から離したがってたから」

「そうですねえ。それはまだ矢央さんを妹のように見ていた時じゃないですかね?
今はきっと傍にいたいとおもってるはずですよ」