「新八、お前幸せか?」


原田が酒を持って永倉の下にやってきたのはつい先程のこと。

くいっと杯を傾けると口の中に酒特有の味わいが広がる。


「なんだよ突然」

「んーなんとなく、な。ほれ、漸く惚れた女と結ばれたわけだし?」


今宵は美しい満月だ。
酒のあてにするには物足りなさはあるものの、それなりに満足感があった。


「結ばれた、ねえ…」

「なんだ?まだなのか?手の早いお前が?」

「失礼だな、おい。気持ちは、結ばれたのかもしれねえが、お前が期待してるようなことはねぇよ。昨日の今日だぞ」

「あーそっか。いやよお、矢央、女の面になってたからな」

「あいつはどんどん綺麗になってるよ」


フッと微笑む顔が月明かりに照らされ妖艶さを増す。


「それはお前がいるからだと思うぜ。矢央は弱くねえ。だから、傍にいろ。お前等なら共に生きられるさ」


口に運びかけた杯を止めて、畳に視線をやる原田を凝視した。


いつもふざけあう原田が今日はやけに大人しい。


どうかしたのか?と尋ねると、方眉を上げて一気に酒を煽った。


「おまさと子供に別れを告げてきた。
きっとこれから戦が始まるだろうから、もしかしたら…もう会えねえかもしれねぇって」

「そうか」

「あいつ笑った言うんだよ、いってらっしゃいってよ。帰れねえかもって言って別れを言いに来た奴に笑って言うんだよ」


思い出しただけで泣けてきた。
おまさの方が辛いのに、泣く子をあやしながら気丈に振る舞う妻を思い出すと、酒の味が苦味を増す。


ありったけの金を預け、子を立派に育ててくれと言って此方の方が別れを惜しむように逃げ帰ってきた。


「女って強ぇよな…。野郎なんて、いざって時は弱いのかもしれねぇぞ」

「はは、かもな」

「なあ新八。あいつなら大丈夫だ。お前も大丈夫だろうさ」


親友の切ない笑みを見て、傍にある原田の髪をかきまわした。

伸びた前髪の隙間から月明かりに照らされたのか、キラリと何かが光ったが見ないふりをしてやる。



「今頃なにしてっかなー」