「良い縁談だって言ってたぜ」


矢央がいなくなったと分かり焦る永倉達に土方は言った。

縁談の話があり、新選組を離れることを自分が決めたのだと。

それを受け入れられずにいるんだろうと。


普段なら山崎が矢央を捜索するが、矢央の想いを知った山崎は永倉に探してやってほしいと頼んだ。



「良い人って言われたって、それを決めるのは私じゃないですか?ほんと土方さんっていつも勝手…」

「あの人が決めることは、全て相手のためを想ってだ。自分はいつだって嫌われ役をかって出る」

「分かってますよ、そんなこと」



だから…怒れないんじゃないか。

いつだって矢央を想ってくれていた。

今回のことは多少強引でも、女である矢央の一番幸せになれるだろう道を作ってくれたことも。



「餓鬼だ餓鬼だと思ってたお前が嫁ぐなんてなあ…」

「もう十九です」

「そう言ってもお前見た目老けねぇしよ。俺だけ歳食ってるみてぇだわ」

「大丈夫。歳取っても、永倉さん…かっこいいから」

「………」



隣にいる永倉からの視線が痛い。

そして自分の顔がやけに熱い。



「それは…どういう意味でだ?」


ふう、と溜め息をつく。

どうしてこういう時に限って鈍いのだろうか。

それとも分かっていて聞いているのか?
だとしたら質が悪いだろう。



「……かっこいいから、かっこいい…んです!ちょっ…あんまり近くに来ないでくださいよっ!」


顔を隣に向けると思っていたよりも近い距離に驚き距離を取ろうとしたが、地面につけた手の上に永倉の手が乗って身動きがとれなくなった。


「逃げんなよ。ちょいこっち向け」

「いーやーでーすっ!!手離せ!!」

「……お前が惚れてんのは、総司じゃねぇのか?」

「……へ?」


あ、しまった!と思った時は遅かった。
矢央は永倉の発言に驚き、そっぽ向いていた顔を永倉に向けてしまい、真剣なその双眸と視線が合ってしまう。

その途端ドキドキと心臓が暴れ出した。