寝床から身体を起こした沖田に羽織を着せると、空気を入れ換えるために少しだけ障子を開けると、また沖田の隣に腰を下ろした。


一日に一度はこうして必ず沖田の顔を見にくるのも最早日常化している。



「土方さん、良い運動になったんじゃないですかね」

「あはは、おかげで私も足が速くなったような気がします」



布団の上に乗った細くなった白い腕。

長い間結っていない長い黒髪から覗く首も細くなったような気がした。



「…ゴホッゴホッ…」

「総司さんっ…無理しないで寝てくださいね」


咳き込んだ沖田の背を撫でる。

背を丸めて苦しさを逃している沖田は弱々しく微笑んだ。



「…コホッ…大丈夫。こうして誰かと語れる時くらいしか楽しみがないから」


目尻に涙を溜めた沖田に何て返してやればいいか分からず口を閉ざしてしまう。

やはりあれくらいでは沖田を元気付けることに無理があったのだろうか。



「矢央さん、少しだけ弱音を吐いてもいいですか」


どんなに辛い状況でも沖田が弱音を吐くことは珍しい。

なのにそれを宣言してまで言いたいとなると、それ程まで沖田は弱っているんだと思うと胸が痛む。



「…私に剣の道を教えてくれたのは近藤さんと土方さんです。そんな彼等の大きな背中を小さい頃からずっと見てきた」


矢央は何も言わず、ただ話に耳を澄ます。


「いつか彼等と同等に…同等になれなくても、彼等の力になれるようにと死に物狂いで稽古に励み、そして私に好機がやってきた。
この新選組で漸く私は彼等の力になれると、大きくてなかなか届かなかったあの背中に漸く追いつけると思った…」



話の時折ふぅと小さく息を吐いたり、喉が詰まるのか咳払いして話を続ける。



「なのに…やはり…近藤さんや土方さんの背中は大きくて、とても遠い…」


最後の方は小さな呟きとして空気の中に消えていく。

涙は流れていないが、沖田が泣いているように見えた。


グッと握った拳に力が入る。


「刀を振るうことが私の存在価値なんです。なのにそれすら許されないなんて…ただの役立たずじゃないかっ!!」

「総司さんっ」


気付いたら沖田の頭を抱き抱えていた矢央は、あんなに強く頼りがいのあった男がとても小さくて消えてしまいそうで抱き締めずにはいられなかった。


「総司さんは間違ってる!総司さんの価値はいっぱいあるんです!刀が握れないからって、総司さんの価値がないなんて誰も思ってないから…」

「…くっ…ううっっ」


ゆるゆると母親に縋るように矢央の背中に回された腕に力が籠もる。

離れて行かないでと訴えてくるようだった。


「大丈夫。大丈夫だから…総司さんは、一人じゃない」


沖田がどうして近藤達にそこまで執着するのか矢央は知らない。

幼い頃に親元を離れ知らない大人達に囲まれ育った沖田が、どうやって近藤達に心を開いていったかも知りはしない。


ただ一つだけ分かるのは、今の沖田は大好きな近藤達に置いてかれないようにと必死にもがき苦しんでいるということだ。