山崎と別れたあと、なんとか土方に見つからないように沖田のいる離れまでやってきた。

障子を開け部屋の中を覗くと、布団が小さく上下していたので寝ているんだろうと思い、静かに部屋の中へと入る。


薬、薬、と山崎に言われた通りに沖田が起きたら薬を飲ませるために白湯も準備してきたのでそれを机に置いた。


コツと僅かに音を立ててしまう。



「…ん…あれ、矢央さん?」

「あ、起こしちゃいましたか」

「いえ、さっきまで起きてたんですけどね」



いつの間にかうとうとしているうちに寝てしまったと言って、霞む目をむにむにと擦る沖田。

その仕草が大きな猫みたいで可愛いと思って見ていると、あからさまに嫌そうに顔を歪めた沖田と目が合う。



「それ、薬」

「そろそろ飲む時間ですからね。ほら嫌なことはさっさとすませちゃいましょう」


矢央も少し前までは山崎の調合した苦い薬を毎日飲んでいたので、沖田が嫌がる気持ちも理解できる。



「やだなあ。たまには、お団子とかお団子とか、それにお団子とか食べたいです」


嫌でも飲まなくては駄目です!と、薬と白湯を突き出されて仕方なく受け取ったあと、ほんの少しの抵抗を見せていた。


三度に渡り団子が食べたいと唇を突き出す沖田に、子供ですかと突っ込むのを忘れない。



「本当は駄目みたいですけど、今度買ってきますよ。ちょっとくらい食べたって罰当たらないだろうし」

「ああ!矢央さんが仏様に見えます!」


それはそれでなんか嫌…。


ああそうだ、とゴクリと喉を鳴らした沖田に今日の差し入れはこれだと冊子を差し出した。


それを受け取り、変わりに湯呑みを返す。



「これは、土方さんの…懐かしいなあ」

「さっき土方さんの部屋の片付けしてたら見つけて、総司さんこれ好きみたいだったから…お借りしてきました!」

「なるほど…」


だから先程から土方の怒声が響き渡っていたのかと、クスクス笑う。


「ありがとう。これを見ていると、なんか安心するんですよね」

「そっか、なら良かった。土方さんたら、少し貸してって言っただけで、こう目を吊り上げて怒るもんだから困ったもんですよ」


自分の両目を指で押し上げ、どうやら土方の顔真似をしているらしい矢央を見てまた笑う。


それからも、土方からどのようにして逃げてきたかを沖田が退屈を凌げるように面白おかしく語っていった。