永倉に好きだと言われ舞い上がる気持ちと、それを素直に受け入れられない気持ちが交差する。

沖田や藤堂に好きと言われた時もドキドキしたが、永倉に言われた時はドキドキと同時に胸がキュッと締め付けられた。

そして思った…嬉しいと。



「私って本当は未来の人間です。だから、永倉さんの未来の家族を壊しちゃうかもしれない…」

「…へえ、お前が好いた相手って永倉さんやったんか」

「へ?あ、ああっ!!」


ニヤリと笑う山崎を見て気付く、そういえば山崎には好きな人はいるが名前まで明かしていなかったと。

自分の間抜けさに嫌気がさし、また顔を埋めてしまう。


「そうちゃうかとは思ってたけど、意外っちゃ意外やな」

「…私って解りやすいですか?」


沖田にも気付かれていたようだったので、自分の態度はそんなに表に出てしまっているのかと素朴な疑問を持った。

すると山崎に「解りやすいな」と、あっさり言われてしまい落ち込む。



「最初は年も近いし沖田さんかと思ってたんやけどな。そうかそうか、永倉さんか」



沖田を好きだとしたら、頬を赤らめるこの初な女子が将来とても辛い想いをするだろうと思っていたが、永倉だったら健康体で腕も良いので、この時勢を矢央と共に生き抜いてくれるのではないか。

だとしたら、この恋を応援してやろうと思う。


何故か嬉しそうに微笑む山崎に、矢央はしっくりこない。



「ンで、永倉さんの未来の家族を気にして踏み出せんてか?」


コクンと一つ頷く。


「未来未来って気にしてもしゃーないと思うけどな、俺は。実際お前は此処におるし、考えようによっては永倉さんとお前が家族になれば、それはそれで確かな未来とちゃうか?」

「私が、永倉さんと家族…って、それはっえっと…」

「夫婦やろ。永倉さんもお前もええ歳やし、あの人は女好きやけどしっかり責任は取る男やと思うで」

「話が飛びすぎですってっ…」



まだ想いを伝えてもなくて、付き合ってないのに夫婦の話をされても困る。

慌てる矢央をからかうのが楽しいのか、山崎は矢央の膨れた頬をつついて遊んでいた。


「人生なるようになるもんや。深く考えんと、素直になれ。女は素直なんがいっちゃん可愛ええで」

「ぁう…」



最後にくしゃくしゃと髪を撫でられ漸く腕を解放された矢央は火照る頬を両手でさすり立ち上がって豊玉発句集を差し出す山崎を見上げた。


「…返してくれるんですね」


そのまま土方の下に戻っていくと思われた冊子が手元に戻ってきて意外だったが、先程山崎は見逃してやると言っていた。

本当に見逃してくれるんだ。



「沖田さんに、薬飲ますん忘れるなや」

「はあい」


部屋を出る間際、一瞬だけ見た山崎の顔が切なげに揺れていたが何て声をかけていいのか分からず結局そのまま部屋を出てきてしまった。




残った山崎は椅子に腰掛け、膝の上に頬杖つき哀愁漂わせ微笑む。




「幸せにしてもらえよ…矢央」



どうしてか最近は胸騒ぎが止まない。

見上げた空は透き通るような浅葱色で、何処までも高く広い。

気分の上がる光景に、山崎は不安定に揺らぐ新撰組と矢央の未来を願った。