「…せやから、しっかりしてきたなって褒めたやん」

「その後蹴落とされた感じがしますけど」

「はは、口も達者になって」

「それは褒めてないですね」



触れた小さな温もりが何故か酷く恋しい。

歳の離れた女子に、まさかな…と自分の中に僅かに芽生えた気持ちに蓋をした。


ーーーぐいっ。


「ぅわっ…」


急に両腕を引かれ、山崎を背後から抱え込むような体勢になり戸惑う。

咄嗟に離れようとするも、両腕をしっかり握られていては身動きがとれなかった。


「や、山崎さん?」


山崎の俯いたら顔が直ぐ隣にある。

少し動けば頬と頬がくっつきそうな距離感に頬に熱がこもった。



「暖かいなあ…」

「……」

「間島…お前、好きな奴にその想い伝えたか?」

「ふへ?」

「ふっ、阿呆面」


思ってもみなかった発言と至近距離に迫った山崎の顔に変な声を漏らすと、山崎に鼻を摘ままれグイグイ引っ張られ痛みに唸った。


うーうー言っている間、楽しそうに笑う山崎を恨めしい気に睨みつけるが本人には効き目なしだ。


「う″~もうっいい加減にしてくださいっ」


低い鼻が更に低くなったらどうする!?


「ははは!副長で遊んどる罰や。これくらいで見逃したる俺優しい~」

「どこがだっ!?」

「で、話戻すけど伝えたんか?」

「うっ…いいえ…」


言葉に詰まり山崎の首もとに顔を埋める。
その好意が男を煽るものだと気付いてやっているのだろうか?

…否、こいつに限ってそれはないな。



「言わんと後悔するかもしれんで」

「…でも、伝えて変わっちゃうのが…怖い」

「怖い?変わるって何がや?」


肩口で揺れるすっかり黒くなった髪を優しく撫でてやると、ゆるゆると顔を持ち上げる矢央は唇を尖らせている。


この距離でその仕草…本当に誘っているかのようで小さく息をついた。