支度をすませ屯所を出ると、壁に凭れた原田とその前に立つ永倉が話していた。

藤堂の件から半月近く経ち、漸く原田や永倉も調子を取り戻しつつあった。


「矢央、聞いたぞ!お前ぇ土方さんの大事にしてた湯呑み割ったらしいな?その上それを隠してて、えらく絞られたらしいじゃねぇか?」

「なっ!?誰から聞いたんですか!?」



三人で肩を並べて歩いていると、ニヤニヤと笑いながら矢央の頭をベシベシ叩く原田は、プッと吹き出し矢央を通り抜け更に隣の男へと視線を向けている。


その視線を辿れば、永倉が口笛を吹きながら寂しくなった山を見詰めている。


犯人はあんたかっ!!
と、矢央が睨めば、チラッと振り向いた永倉は目尻を下げてニヤッと笑みを深める。



「あ、あれは、なんか咄嗟に隠さなきゃと思って…」

「にしても、何で隠す場所に総司の部屋だったんだよ?」

「えっと、総司さんに割ってしまったとこ見られちゃって……それで、総司さんが」



『矢央さんのために私が隠してあげます!』と、今思えば物凄く怪しい提案をしてくれたんだと矢央が言えば、永倉達は大笑いだ。



「あいつが、人の助けするわけねえ!唯一するなら近藤さんのことだけだ」

「土方さん絡みときたら、総司が面白がるのは目に見えてるな!矢央、もうちぃっと学習しろ」

「ううっ…」



優しい沖田のことだから、本当に上手く誤魔化してくれるのではと期待したのに、沖田は自室の机の上に堂々と割れた湯呑みを置き、それを見つけた土方にあっさりと犯人は矢央だと言ってのけた。

しかも、本人を目の前にして。


その時の矢央は口をパクパクさせ顔は青ざめ、般若のような顔をして振り向く土方を見て物凄い勢いで逃げ出した。



「矢央が屯所中を土方さんから逃げ回ってんの見て昔を思いだしたよ」

「昔?」


墓に着くとお供え物を置き、手を合わせる三人。

こうして時間が出来ると三人揃って藤堂の墓参りにきている。
今日はこれで三度目だった。



「ああ、総司の奴が土方さんからかってた時だろ?」


藤堂が好きだった酒を持って来たぞ、と原田は墓に酒を浴びさせる。

それを矢央が止めたがお構いなしだ。


「そうそう。今は鉄か矢央が土方さんに追われてるがよ、昔は総司だったなって。
きっと総司の奴、土方さんのために矢央の失態バラしたんじゃねぇかな」

「土方さんのため?」