「……ふう…」


冬の寒さに洗濯するのも辛くなってきた。
隊士となった今も朝稽古をすませてから、女中と共に隊士達の大量の洗濯物に追われている。


皹の出来た手を太陽に向け伸ばし、眼を細めて見詰める。



「なーんか、汚い手…」


剣蛸や皹で荒れ放題の手を見て、若い女の手には見えないとボヤく。



「矢央、洗濯干し終わったなら墓参り行くぞ」


ヒラヒラと風に靡く洗濯物達の前に立ち、手を空に掲げていた矢央に永倉は何やってんだと聞く。


「丁度今終わりました」

「手、どうかしたのか?」

「いえ、汚い手だなって」



ほら、と両手を突き出すと、大きな手に包まれる。


ドキッと胸が鳴った。



「痛そう、だな。毎日ご苦労さん」


ハアと温かい息を吹きかけ、自分の手で小さな矢央の手を揉むように包み込む。


「い、いえっ…もう慣れましたし」

「それでもありがてぇんだよ。お前等がこうして毎日世話焼いてくれっから、俺等は仕事に集中出来るんだからな」

「…はい」



そういえば昔にも、こうして永倉に冷えた手を温めてもらったことがあった。

あの時もドキドキしたが、今はそれ以上にドキドキして苦しい程だ。


「それじゃあ行くか。左之は外で待ってるってよ」

「あ、はい!じゃあ、片付けて…あ!」


洗濯物を入れていた籠をしまってこようと手にしようとすれば、それをヒョイと永倉に奪われ「戻しといてやるから支度してこい」と、永倉は庭を後にしてしまった。


その背を暫く見詰め、温かいのは手だけではないなとはにかんだ。