「泣きたい時は泣けつったろ。ほら、胸貸してやっからよ」


「……っっ」


昨夜、もう一生分の涙を流したと思っていた涙が、予想外の温もりに包まれ溢れ出た。
 

背中に回せた大きな手から伝わる温もり、頭を撫でてくれる事によって安心出来た。


「…今は好きなだけ泣いて、明日から笑ってやれよ。平助は、お前の笑ってる顔が好きだつってたからな」


声に出せなくて、何度も頷いた。

明日から笑っていられるように、今だけはこの温もりに甘えさせてほしい。

ギュッと服を掴むと、永倉は更に深く矢央をその腕に抱き締め、少しだけ息苦しさを感じながらも離れていかないように、矢央もまた更に服を強く掴んだ。










「…服、汚しちゃって、ごめんなさぃ」


抱き締められ泣いた事が我に返ると予想以上に恥ずかしく、照れ隠しに俯くと最後の方の言葉が小さくなってしまった。

すると永倉は「なんて?」と、意地悪い笑みを浮かべて顔を覗き込む。


「…っ、だからっ、ごめんなさいって!」

「ふっ、何今更照れてんだか…」

「だって、ちかっ…」

「ちか?」


“永倉さんの顔が近すぎるから”、なんて言ったら余計にからかわれそうで言い淀んでいると、クシャクシャに頭を掻き回された。


抗議しようと頭を押さえて顔を上げると、永倉の顔を見て言い返せなくなった。

いつもならニヤニヤと笑っているか、ぶっちょ面の顔が、いつになく真面目にでも何処か切なさのある眼差しが矢央を見詰めている。


どうしたのか尋ねようとしても、上手く声に出せずに、ただじっと見返すだけだ。



「…矢央…」