翌日、矢央は暫く休みを貰えることになった。

心身共に休ませてやりたいと近藤と土方の配慮によるもので、山崎に手当てをしてもらい今は自室の布団に潜っている。


大人しくしていろと顔を合わす度に言われるので、素直に従っているのだが何もしないとそれだけ色々考えてしまって気が滅入った。


藤堂と坂本の死を受け入れたつもりだが、目を閉じると二人の顔が浮かび何とも言えない悲しみに襲われる。


胸が痛い。
時間が解決してくれるというなら、早く時間が経てばいいのにと思う。


正午を知らせる鐘が鳴り、いつもなら慌ただしいこの時刻もゆっくりと時を刻んでいった。





「…散歩くらい、いいよね」


やっぱり駄目だ。
一人でいると、暗いことばかり考えてしまう。

散歩くらいなら辛くなったらその場で休めばいいしと、矢央は布団から飛び出した。


かと言って行く宛があるわけでもなかったので、部屋から出て右回りに続く廊下を歩いているだけ。

廊下の角を曲がると、開けっぱなしの部屋が見え中を覗き込むと、廊下に背を向けて腕を枕に横たわっている永倉の姿があった。


此処は永倉の部屋だったのか、とキョロキョロと周りに人の気配がしないことを確認すると、恐る恐る部屋に足を踏み入れる。


寝てるのかな?

原田は巡察で藤堂もいない、非番の永倉は暇で昼寝でもしているのかと思い、少し後ろに静かに腰を下ろし、広い背中をぼんやりと見つめた。


ーーーお前を一人にしねぇよ。


熊木との戦いの最中、永倉に言われた言葉を思い出して胸が熱くなった。

そしてそれと同時に、熊木に言われた『貴女と出逢ったことで本来出逢うはずの人に逢えない』という言葉も思い出し切なくなる。



この人もそうなのかもしれない。

永倉も、出逢うべき人と出逢えていなかったら?

矢央が唇を噛んだ瞬間、かさっと畳が擦れた音がして顔を上げると永倉が此方を見ている。


「………」

「………」

「…泣きそうな面しやがって」

「…っ」


身体を起こした永倉は、矢央の目の前まで来ると再び座り込み小さな頭を自らの懐に抱き寄せる。


鼻孔をくすぐる永倉の香りに、きゅんと胸が軋む。