「おいお前等、そいつ殺すなよ? 後で死んだ方がましだと思えるくれぇに吐かせてやるからよお」


熊木からは色々と聞きたいことがある土方は、止めていなければ殺してしまいそうな男達に一言告げた。

やはりそれに舌打ちした面々に近藤は苦笑いだ。


体力を消耗し一人で立っていられず土方に身体を預けている矢央の頭を無骨な手で撫でると、大きな瞳に近藤の穏やかな微笑みが映っていた。



「無事で良かった。本当に」

「近藤さん…」


矢央を隊士になるように仕向けたのは局長である近藤だが、彼も女である矢央が怪我をするのを快く思うはずはない。

ただ政情が悪化して行く中で、女である矢央に新選組の中で居場所を与えるためにとった方法だったが、男達にはその想いはなかなか受け入れてもらえなかった。



「辛い思いをさせてすまない」


だが土方と同様に不器用な近藤には、こうすることでしか矢央を守ってやれないのだ。


「…近藤さんだって、皆も同じように辛い思いしましたよ。 私だけじゃない」


大丈夫とは言わない。
否、言えないの間違いだなと、自嘲気味に笑う。


今回の事は、どんな形であれそれぞれの心に深く傷を残したはずだ。


目の前で熊木を捕らえた男達も、そして同情はできないが捕らえた熊木でさえも。



「…俺は何も語ることはないですよ」

「だったら、そのまま死ぬだけだ」


身体を縄で巻かれた熊木は、土方を見上げそう言った後、矢央を見て言った。


「あの時死んでいれば良かったと、後悔しても知りませんよ。 これからの世、女の貴女には過酷以外の何物でもない」

「…っ」


虚ろな眼に吸い込まれそうになる。
息を呑むと、グッと土方に肩を掴まれ意識を土方に戻した。


「死んでいれば良かったと後悔するのはお前だ。 山崎、こいつ蔵に押し込んどけ」

「御意。 間島、お前は直ぐに俺の部屋に行っとけ」

「えっー…と」

「ええな?」

「うっ」

「え え な?」


どんどん顔が迫ってくるのに耐えられず、「はい」と頷いた。






こうして矢央にとって深い悲しみを負った長い夜が明けようとしていた。


視界の片隅に見える、うっすらと明るくなりかけている空をぼんやり眺めながら漸く終わったんだと息をついた。