動きを封じられた上に、少しでも動けば首に鋭い刃が刺さる。
「矢央っ!」
「矢央さん!!」
グッと白刃が首筋に押し当ててられてことにより、以前熊木につけられた傷口が開いた。
二度も同じ男に命の危機に陥れられるとはと悔しがる。
「何だか面倒になってきました。 自ら選べないと言うなら、さっさと片付けてあげますよ」
「うあっっ!!」
背後から傷を負ってきた腹部の辺りを蹴られ、痛みに呻く。
手当てしていなかったそこは、次第に血に染まりはじめ、今まで見物客になっていた土方も動きを見せた。
「そうだな。 お前の言う通り、いい加減ま待ってやるのも面倒になってきた。 矢央、つぅわけだ、さっさと蹴りつけやがれ」
「なっ…に言って、出来るなら、してますっ!」
「違うだろ。 お前の目の前には誰がいると思ってる」
痛みのせいで涙が滲み視界が歪む中、土方の言葉を確かめるように土方達を見詰めた。
近藤、土方、沖田、永倉、原田、山崎。
これまて幾度となく危機を乗り越えてきた仲間がそこにいて、やっぱり此処に…彼等の傍にいたいと改めて確信していると、
「お前は一人じゃねぇだろ。 だから選べ、お前は俺達にどうしてほしいんだ?」
今まで土方が手を出さなかったのは、矢央に選ばせるためだった。
仲間を守りたいと必死になる矢央だが、それは此処にいる彼等とて同じなのだと気付いてほしいかったのだろう。
「お前一人のせいで、俺達がどうこうなるわけねぇだろ。 いい加減一人で抱え込む性格直さねぇと手加減なしで稽古つけるぞ」
「…っ! ふ、普段からあんまり…手加減してくれてないじゃないですかっ」
「あ?十分してるつーの。俺の優しさが分からねぇってか?そうかそうか、お前後で覚えとけよ?」
「うぐっ…」
余裕のない状況でこうして無駄口が叩けるのは、土方や永倉の余裕の笑みのせいだろう。
彼等を見ていると、不思議と負ける気がしない。
もう一度土方を見る。
絡み合った視線は真っ直ぐ矢央の瞳を捉えていた。
「…お前は此処にいてぇんだろ。だったら、俺達を信じねぇか」
「…あっ」
土方の言葉を聞いて、今まで一人で意地を張っていたんだと気づく。
どうやっても熊木には勝てないのに、熊木に煽られて守ることばかり頭にあった矢央は、直ぐ傍に手を差し伸べてくれる仲間がいるというのとを忘れていたのかもしれない。
一人で頑張っても限度がある。
だからこそ、仲間と助け合って此処まできたのに……。
何を言わなくても矢央が困っていると助けてくれた“仲間”の存在を痛い程噛み締めた。



