「坂本さんは、私のせいで…」
止まっていた震えが再び矢央を襲う。
「これからも、貴女がいなければ助かる人もいるかもしれないですよ」
「…っ」
肩を揺らし恐る恐る背後を振り返ると、矢央と熊木を見ている土方達がいて、彼等を見て唇を強く噛み締めた。
もしかしたら、此処にいる彼等の中にも助かる人がいるのか?
そう思うと、矢央の戦意は無くなっていく。
「それに、貴女に出逢ったことで彼等が出逢うはずの人にも会えない事態が起こっていることもお気づきで?」
それは考えたことがあった。
彼等は歴史上に存在した人間で、矢央の時代にも彼等の子孫と言われる人がいる。
矢央と深く関わったことで、その人達がいなくなるかもしれない未来を少なからず考えたことがあった。だから……。
胸がチクリと痛み、胸元の服をギュッと掴んだ。
「貴女のためでもあるんですよ」
「私の、ため?」
「いつかきっと貴女は一人になる。 此処に存在しない貴女には、此処での未来はないのだから」
「一人……」
一人になる。そうかもしれない。
身内もいない矢央は、彼等がいなくなれば居場所もなく頼る人もいなくなる。
この時代にいることもいないことも選べずにいると、
「矢央、お前は一人じゃねぇだろ」
土方の腹に響く低音に振り返れば、皆が矢央に向ける眼差しに迷いはなかった。
そして、
「お前を一人になんてしねぇよ」
「………」
彼の言葉を聞いた瞬間、身体中の力が抜けたのを感じた。
自分がいることで大切な人の未来を変えてしまうかもしれないとしても、それでも彼から「一人にしねぇよ」と、一番ほしい言葉を貰った今は離れたくないと思ってしまった。
「ほんと後一息というところで邪魔ばかりしますね。 せっかく選ばせてあげようとしてきたというのに」
「…え?…うぁっ…」
鬱陶しそうに言うと矢央の背後を取り、鋭い白刃を矢央の首筋に押し当てていた。



