「……………え?」
目の前に短剣がスッと横切ったのを間一髪で身を反らすことで避けた。
致命傷にはならなかったが、短剣の先が微かに矢央の頬を掠めたため横一文字の傷から生暖かい血が流れだす。
「目の前の武器だけだと思わない方がいい」
「…っっ」
「…阿呆が! そいつ身体中に武器隠しとるわっ!!」
「ええっ?そんなのありですかっっ?」
熊木と距離を取り次の一手を考える。
刀がなくても熊木の動きを止める攻撃をしなければ意味がないが、何処に武器を隠しているか分からず迂闊に近づけない。
「どうやっても勝ち目がないと潔く諦めたらどうですか?」
「…諦めて、熊木さんが引いてくれるんですか?」
だったら諦めるのも一つの手なのかもしれないと思うが、彼は引くことはないだろう。
性格悪いな、と苦笑いすらしてしまう。
「貴女がいなくなるのなら、ね」
「さっきからそればっか…。 私は自分で此処にいたいって決めたから、熊木さんに負けるわけにはいかないんです」
「…それは守りたい者のためなんですよね?もしも間島さんがいなければ、助かった命があったとしてもですか?」
「え……」
自分がいなければ助かった命?
なんのことだろうと首を傾げながら、熊木の言葉の意味を考える。
心臓がドクンドクンとうるさかった。
「坂本龍馬を最初に訪ねたのは伊東さんなんですよ。用心棒もかねて、俺は付き添ったんですが、彼は坂本さんに命の危機があるやもしれないからと伝えてました。
それまでは彼を殺すことは考えてなかったんですがね、彼が貴女を大切そうにしていたもので消せばどうなるかな、と」
「………」
挑発するように微笑む熊木。
「貴女が関わっていなければ、坂本さんは助かっていたかもしれない」
ーー俺が手を下さなくても誰かに殺されていたはずですがね。



