――――トサッ……
畳に広がる短く揃えられた黒髪。
傷みのない細い髪をすくいとった土方は、気ざったらしく唇に寄せ切れ長な目を細めた。
「ひ…じかた…さん?」
土方の長い黒髪がパサリと矢央の顔に落ちる。
ドキンッ!と、心臓が太鼓を叩くかのように鳴った。
自分とは違う、着物の隙間から覗く逞しい胸板と、顔の直ぐ横で逃げられないようにと置かれた腕。
チラッと見れば、血管の筋が浮かんでいたりして、何故かドキドキした。
女の自分にはない、男を見せられた気がして。
ゆっくりと近付いてくる土方の顔は、間近で見れば見る程男前だった。
「ッッッッ!!」
思わず瞼をとじてしまった矢央に衝撃的な一言が降ってくる。
「逃げねぇなら、このまま大人にしてやろぉか?」
「……に、に、にゃああぁっっ!」
我慢の限界に達し、力いっぱい腕を伸ばす。
しかし、その腕すら軽々と押さえ込まれてしまった。
「……クッ。 冗談だ」
「へ……じょじょじ…」
「冗談だっつってんだよ。 言ったろぉが、お前みたいなガキに興味はねぇと」
「ガキじゃないしっ!」
何が可笑しいのか、笑いを必死に耐える土方が忌々しい。
殴ってやりたいが、後の処罰が恐ろしいので、想像の中で一度成敗してみる。
体を起こした土方は、未だにカチコチとなって畳に寝そべる矢央に尋ねた。
「ンで、どうなんだ? ドキドキとやらはしたのか」
「……した、かも(一生の不覚だ)」
「そうか。 なら、それが今の答えだろ」
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