「熊木さんは…何が望みなの?」


赤石がほしいと言うなら、これは元々お華の物で熊木が兄なら渡すのがいいのかもしれない。

そう思いながら尋ねながらも、熊木の望みは薄々分かっていた。

ゴクリと喉が鳴る。




「間島さん、貴女はこの時代に必要ない。 消えてくれますか?」

「……ッッ!!」


やはりそうかと思う。

自分が消えて、そして赤石を手に入れれば熊木が幼い頃夢見たことが手に入るのだろう。

そこにお華はいなくても、矢央の胸にしまわれたこの赤石があれば。



「お華は、貴女に此処で生きるか選ばせたのでしょうが、それはお華が罪を感じていたからだ。 本来ならば、貴女を元の時代に帰さなければと思ったはずで、それこそが最大の過ちだと悔いているはず」


ーーー全て貴女が消えれば元通りになる。



目の前が闇に染まり、握っていた手の力も緩みぶらぶらと力無く揺れていた。



「…なぁに、うだうだ喋ってんだが知らねぇけどよっ!! 矢央もお華も、こうなったこと後悔してねぇよっ!」


少し息をあげた永倉は、身体中に血を浴び肩に刀を担いだまま苛立ちげに言う。

そんな永倉を振り返り、唇を噛み締めた矢央は切なそうに見詰めた。


「だろ?」


矢央に見える笑みには優しさがあり、矢央はまた瞳を潤ませる。


確かに後悔はしていなかった。

此処に残ると決めたのは自分なのだから。


だから弱々しくも頷き返した矢央に満足そうに笑った永倉は、強い眼差しで熊木を見やる。



「てめぇが俺達が決めたことをとやかく言う権利はねぇつぅわけだわ。 だからさっさと消えな」

「そうだぜえ!! 矢央は俺達の仲間だからよ、今更いなくなるとかな。 それに、もう仲間は失いたくねぇわ」


そう付け足したのは原田だ。

永倉の隣に立ち、永倉の肩を抱くと「なあ?」と同意を求めていた。


「原田さんも、たまには良いこといいますねえ。 矢央さん、貴女が悩むことは何もないんですよ、きっと今貴女は自分を攻めているのでしょうが、その必要は何一つない」

「おい、総司!たまには、は余計だろ!?」

「そんなことどうでもいいですから。さて熊木さん、此方は片づきましたが、どうします?」


そんなこと、と軽くあしらわれた原田が永倉に慰められているのも無視した沖田は、血の付いた顔でニコッと微笑んで見せた。


沖田の言う通り、あれだけいた敵が熊木が話し込んでいる間に大方片付いている。


「…これは驚いた。 あれだけの男達を、これだけの人数で。流石と褒めるべきでしょうか」


驚いたと言うわりには、熊木は一切表情を崩していない。