そう言って笑った熊木は恐ろしい程に残酷な笑みを浮かべ、矢央はただ恐怖を味わった。
今までにない狂気に包まれ、自分はこの男とどう向き合えばいいのかと悩む。
「小さな亀裂はやがて大きく、そして取り返しのつかないものになる場合もある。 土方さんは、彼女が存在することによって新選組が本来の歴史と違った道を進むかもしれないと思わないのですか?」
「…それがどうした。 最初から俺等の未来なんて知らねぇからよ、こいつがいるから何がどう変わってるのかも分かるわけねぇだろ」
「確かに…、未来を知らなければ、それがどう変わったかなど知るよしもないか。 でもね、いつか必ず邪魔になりますよ?」
ドクンッと、胸が鷲掴みされたように痛んだ。
ーーー邪魔になりますよ?
いつか必ずではなく、これまでもこれからも何度も新選組にとって邪魔な存在になったはずの自分の心を見透かされたようだ。
どう頑張っても矢央は女で、どこかで彼等の足を引っ張っている。
そして今もそうだろう。
新選組にとって関わりがあったのは伊東という存在だけだったはずなのに、こうして熊木が新選組に関わっている。
それは紛れもなく間島矢央という、此処には存在しない者のせいなのだ。
矢央は、ぐっと胸元を押さえた。
ーーーーどうしたらいい?
熊木を倒していいのか?
それでも、自分にそれが果たし出来るのか?
出来ないからといって、また新選組に頼りっきりになるのか?
それでは、これまでと何も変わらない。



