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矢央と土方は、驚きに身動きするのを忘れていたが、はっとした土方が言葉を口にする。
「…まさか、お前ぇはお華の兄だと言うのか」
熊木はまるで御伽噺を話すかのように過去を語り始め、黙って聞いていればお華のことではないかと思うことが箇所箇所に見受けられた。
断片的に未来の見える兄は熊木で、物(者)に触れると未来が見える妹はお華。
「だから、お華さんは夢に出てきて私のせいだって言ったんだ…」
「でも、俺達はお華からお前の存在は聞いたことがねえ」
「それはそうでしょうね。 あの後、父上達は妹を母上の祖父に預けた。駆け落ちして家を出た父上達に、妹を面倒見る代わりに出された条件が俺達との今後の関わりを一切無くすことだった」
妹にもそれは告げられ泣く泣く別れたが、それでお互い幸せになれると信じ、お互いに家族のことは語らずにいたのだ。
「そして、妹を失った俺は計画が狂い大幅に遅れを取ります。 断片的に見えた未来の中に、いつか妹を見つける手掛かりを探した」
そうこうしてる間に熊木は少年の頃の純粋に家族が幸せになるために、その力を使うということは忘れていく。
次第に欲が溢れる熊木に両親はもう何も言わなくなり、十五になった時熊木は家を出て時代の渦に身を置くようになっていった。
「そして漸く見えた。 妹が祖父に預けられ、その祖父が殺され、貴方方と共に暮らすようにると」
しかし見えたのは、それだけだった。
肝心なお華の死は見えておらず、近藤達が京に上り壬生浪士組になり、そして新選組になった頃、熊木は漸くお華を連れ戻そうと新選組に潜り込んだのだ。
「まさか、死んでいるなんて思わなかった。 それでもお華の気配があることに不思議に思い探っていたら、間島さんと赤石の存在に気付いたんですよ」
「だから、赤石を奪ってお華の力を手に入れようってか。 それは分かった、ならなんで矢央を狙う? こいつはお前ぇには何の価値があるんだ?」
「価値? そんなものないですよ。 ただ…」
熊木は矢央を見据え、
「数年ぶりに妹と瓜二つの顔を見て腹が煮えくり返る程の怒りを覚えた。 せっかく俺が幸せを掴ませてやろうとしたのに、俺から逃げた妹が憎い」
「…は、なんだそりゃ。ただの八つ当たりじゃねぇかよ」
理由なんて難しく考えるものではなく、ただ純粋に妹への憎しみにすぎなかった。
お華への愛しさが、自分から離れたことによって憎しみへと変わってしまった。
「それに邪魔なんですよ。 間島さんが、この時代にいるはずのない者がいることによって多少なりと変化がある。 それがこれからの俺の邪魔になる可能性は大いにあるんですよ。
その異物を招いた妹の失態は、兄である俺が排除しようと思いまして」



