「敵に背を向けるなら、お前は切腹だぞ」


ぐっと息を呑む。

土方は矢央に厳しく接する。

女として甘やかさないと決めたのは、矢央が隊士となると決めたその時からだ。

きっと甘やかしてほしいなら、新選組の隊士になろうとはしなかったはずで、何よりも矢央は強がりで甘やかされるのを拒む。


「お前は新選組隊士だろうが。 この状況でおお前は泣くのが任務だなんて言わねぇよな?」


それは女がすることであって、新選組隊士になったお前がすることではないと、土方の双眸は語る。


「ひじ…かたさん…」

「泣くなら後にしやがれ…」


厳しくするつもりでも、やはり女の泣き顔には流石の土方も弱く、手を離す瞬間クシャリと撫でる仕草は優しかった。


そうだ。いつまでもこうしてはいられない。

新選組隊士になって、皆の居場所を守ると決めたのは誰でもなく自分自身なのだから。


「…っ土方さん、ありがとうございますっ。 私っ負けません!!」

「当たり前ぇだ。 負けたら切腹しろ」

「ええっ!? それはちょっと…」


いつもの矢央の顔に戻ると、土方もいつも通りに接した。

それを面白くないと見るのが熊木である。


「熊木さん、話してください。…どうして、私をそんなに敵視するんですかっ?」


熊木と出会ったのは、この新選組だった。

それ以前にはどうやっても関わることは出来ず、熊木との接点がどうしても分からない。

戦うにしても、ちゃんと理由を知っておきたかった。


矢央は大きな瞳で熊木を見詰める。

そして熊木は、その矢央の顔が懐かしいあの少女に似ていて胸に掛かったままの靄が広がるのを感じた。