「…はあはあ…なんの騒ぎだって、矢央どうした!?」


永倉と原田が油小路から走り屯所へ戻って来ると、そこは異様な空気に包まれていて、その中心には泣き崩れる矢央の姿があった。

二人が駆け寄ると「やっと全員揃いましたね」と、満足げに微笑む熊木に虫唾が走る。


「永倉、原田よく戻った。 そっちは片付いたのか?」


永倉達をチラッと見て、また熊木に視線を戻す土方に「ああ」と頷いた永倉は沖田にどうしたのかと状況確認をする。

すると沖田はこれまでのことを話し、それを聞いた永倉もこの間矢央と共に会った坂本の事を思い出し敵と言えども残念に思った。


そして、矢央に更なる追い討ちをかけた熊木を鋭い眼差しで睨み付けた。



「貴方達から、そこまで敵視させる覚えもないんですがね」


しれっと言う熊木は、更に続けた。


「よく考えてみてくださいよ? 俺は新選組にとって邪魔になる存在を消したんだ。 ほら、貴方達に恨まれる…」

「邪魔な奴はお前ぇの手を借りなくても、俺達でぶった斬る。 これまでもそうしてきてし、これからだって変わらねえ」

「…と言うことは、そこの彼女のためにお怒りなわけですか? それはそれは、本当に愛されている…」


とても憎しみの籠もった眼差しで矢央を見る熊木に、土方は熊木の目的は矢央の持つ赤石だけではないと確信した。

未来から来たはずの矢央と熊木が、どうして関わっているのか。

まさか…

「お前ぇも未来人か?」


そう思うのが一番手っ取り早いのだが、熊木によってそれは否定される。



「いいえ。 俺は紛れもなくこの時代の人間です」

「だったらなにが目的で、矢央に付きまとう。 いい加減吐かねぇなら、力ずくて吐かせるぜ」


新選組幹部は血の気の多い男達だ。


土方だけではなく、そこにいる全員かそろそろ限界に近い。

今すぐにでも斬りかかれるようにと、刀に手を添えている。



「でしたらまず、彼等を倒してからにしてはどうですか? 彼等は血に飢えているようだ」


すっかり忘れていたが、新選組にはまだ数十人の熊木が雇った男達がいて平隊士が相手をしていたが、どここら来たのか更に人数は増え隊士達が手こずっている。

その様子を見て舌打ちする土方に、


「だったらさっさと片付けてやらあっ!!」

「おうよ!新八、そっちは任せたぜ!! おらっ十番隊こんなとこで死にやがったらぶっ殺すぞっ!!」

「原田さん、それ無理がありますよー! 死んだら殺せないじゃないですかー」


永倉、原田、沖田が隊士達に加勢し次々に敵を倒していく姿に呆れた視線を投げかけながら「まだ指示だしてねぇよ馬鹿共」と、こんな状況でも余裕そうに微笑んでいた。