どうして守れないんだろう。

いつもいつも、守りたい人を守れない。


それは、これが彼等が歩む運命(みち)だからなのだろうか。


どうしたら守れるのだろうか。

強くなるだけじゃあ、結局何も守れないままだ。



矢央にとって、これまで大切だと思う人は芹沢に始まり山南や岡田などを失ってきた。


しかし藤堂だけは、それまで失った誰よりも心に深く悲しみを宿した。

関わった時間の長さからか、それとも藤堂に想いを告げられていたからなのか。



「平助さんっ…」


分かってる。
永倉や原田が隣で焦る理由も、それを今最優先しなければならない状況だと言うことも分かっていても、頭が追いついてこないのだ。


「矢……」
「ならば無理矢理連れて行けばいいのでは?」



永倉がもう一度名前を呼ぼうとしたと同時に、ある人物の声が永倉の声に被さって、永倉と原田は瞬時に刀に手を伸ばした。


そこにいたのは、いつの間にか消えていた熊木だ。


「そろそろ歴史を元に戻さなればならないし、俺にとっても貴方達には屯所に帰ってほしいんですよ」

「言われなくても帰ってやるよ。 ただし、お前ぇを殺してからだがなっ!!」


永倉の声を合図に、永倉と原田同時に熊木に襲いかかった。


が、一瞬で姿を消した熊木が次に現れたのは、自分達が先程までいた矢央の隣である。


「なっ…」
「てめぇ、矢央に触んじゃねえぞ!!」


唖然とする永倉の隣では、槍で熊木を指して叫ぶ原田。


対照的な二人の態度に薄く笑みを浮かべた熊木は、矢央の項に軽く手を当てるとストンと一度叩いた。


「うっ…」

「矢央っ!?」

「殺しはしませんよ。 ただお手伝いをしようと思いましてね? それでは永倉先生、原田先生お先に屯所でお待ちしておりますよ」


懐かしく“先生”と付けて呼ぶ熊木に苦虫を噛んだような表情で、またしても消えた熊木と矢央がいた場所を見やる。


「くそがっ!! 何度も逃げられると思うなよっ!!」

「ああその通りだ、左之。 屯所までは矢央の命は大丈夫だろうし、屯所に行けば近藤さん達がいる。 とりあえず今は俺達も屯所に戻るぞ! やられっぱなしで終わらせられるか!」

「おう!!」



最後に二人は、もう一度藤堂に別れを告げて屯所へと走って行く。