「平助さんっ!!」


ーーーごめんね、もう声出ないんだ。


藤堂は必死にすがりついてくる矢央に、ただただ詫びる。

その細い身体を、これから先も守りたかったけど、それももう出来そうもない。

約束したのに、もう守ることはできないと心で詫びた。



スーッと頬に触れていた手が力尽き、地面に引き付けられるように落ちていく。


「やだっ平助さんっ! 死なないでっ…死んじゃやだっ、やだやだやだっ!!」

「……や、お…」








ーーーー好きだよ。 





たった四文字の言葉も伝えられないまま、藤堂は静かに息を引き取った。

涙に塗れた瞼が、もう開かないと気付いて泣き喚いた。



「ああああああああっ!!」



矢央が夜空を見上げ泣き叫ぶと、永倉と原田もその矢央を抱きしめ泣いた。

きっと身体は痛いはずだ、二人とも力の加減が出来ない程に苦しくてしかたなかったから。

助けられた命だったのに。


今回は大切な仲間を、友を、殺さずにすんでいたはずなのに。



ーーー平助。






「お前、本当に総司と同じ歳なのか?」

「……え、まあ、そうみたいですけど」

「にしては小せぇな! ンなんたど女にもてねぇだろ?」

「……大きなお世話です。 あんた達こそ、暑いからって朝から褌姿で寝転がってるようじゃ女いないだろ?」

「……」

「…ぷはっ! 面白れぇな、お前…いや、平助!これから飲みに行くんだ付き合え!」

「は? 平助って…勝手に呼ぶなよ、な」

「なあに笑ってんだよ?気色悪いぞ。んなことより平助さっさと支度して行くぞー」

「っっ!!…ま、待ってよ! 新八さんっ左之さん!」







出会った時の記憶が蘇り、涙に歪む視界で逝ってしまった藤堂を見ると、永倉はずずっと鼻を啜って微笑んだ。




ーーーなあに、笑ってんだよ。




満足したような笑みを浮かべていた藤堂。


永倉は、そんな藤堂に誓う。


ーーーお前の分も矢央を守ってやるよ。



だから安心して逝けと。

腕の中で、いつまでも藤堂の名を叫び続ける矢央を抱きしめ誓った。




誰よりも愛に飢え、誰よりも仲間を想って逝った青年。

まだたった二十四年である。

あまりにも若すぎる青年の死を、暫く三人は抱き合って泣いた。


そして見上げた夜空の中の一つが光り、まるで藤堂が別れを告げたように感じたーーーーー















慶応三年、十一月十八日。

元新選組八番隊隊長、藤堂平助、没年二十四。



油小路の歴史は変わる事なく、藤堂の命を奪ったのだったーーーーーーーー