伊東の暗殺は失敗に終わり、その伊東に熊木が絡んでいるであろうことと、多分屯所でも似た状況になっているということを簡潔に伝えると何とも言えない雰囲気になった。
藤堂がいることにより、伊東暗殺計画があったことを言うのを躊躇したが、今の状況では致し方なかった。
「平助さん…」
「大丈夫だよ。 それにしても、どっちも暗殺計画を練っていたなんて、ね」
もし新選組に残っていたとしても、慕っていた伊東を失うかもしれない。
そして、どちらにいてもきっと藤堂は蚊帳の外だったのだろうなと自嘲した。
「ならこんなとこでぼさっとしてらんねえよ! お前ぇら屯所に戻るぞ!!」
そう原田が言えば永倉と矢央は頷くが、やはり藤堂は躊躇いが顔に出ている。
それもそのはず、藤堂は最早新選組とは関係ないのだから。
しかし藤堂のそんな感情なんて原田にとってはどうでもいいようで、俯いたままの藤堂の頭に拳骨が落ちた。
「いっっってぇっ!!」
頭を押さえ涙の浮かぶ眼で原田を見上げれば、珍しく真顔の原田が言う。
「平助、お前は俺達を心配したから此処に来たたんだろ?」
藤堂の視線は泳ぎっぱなしだ。
確かに助けたくて此処に来たが、それとこれとでは話しが違ってくるではないか。
「難しいことは後で考えればいいじゃねえか!お前、こいつを守るんだろ?」
原田の親指は困惑顔の矢央を差し、矢央も原田を見た後に藤堂に視線を流した。
二人の視線が静かに絡む。
「平助さん、一緒に帰ろう? 皆は今でも平助さんを仲間だと思ってるんだよ」
「矢央ちゃん…」
「今回のことが上手くいってたら、近藤さんは平助だけは助けろと言ってたんだ。 その意味が分からねえ程、馬鹿になってねえだろ」
原田、矢央、永倉の言葉が胸に染み、ぐっと唇を噛んだ藤堂は後悔ばかりが脳裏を過ぎる。
近藤が藤堂を助けろと言ったのは、新選組を離れても心は共にあると、仲間だと思ってくれているからだろう。
そして目の前にいる仲間も。
「…僕は、それでも新選組には戻れない」