ーーーースパーンッ!!


土方は一瞬沖田かと思った。

許可を得ずに部屋へ入るのは沖田くらいなものだったが、矢央の慌てた姿に訝しげに眉を寄せる。


「ひじっ…」

「どうした?」


息を乱し上手く喋れないのか、胸を押さえ荒い息を整える矢央。
その背中を撫でながら、どうしたのかと尋ねる土方の表情も焦る。


まだ理由は聞いていないが、この慌てようからしてとても良くないことが起こったのだろうと察した。


乱れた呼吸のまま土方を見上げ、



「っ…伊東さんはっ…生きてるっ!!」

「っっ!?」


矢央のことは信用している。
が、今し方大石は確かに暗殺は成功し、その亡骸を置いてきたと言った。

そしてその大石も油小路に向かったはずだ。


なのに、


「…伊東が、生きてる、だと?」


珍しく土方の声が震えていた。


否、そんなはずはない。
伊東は相当酔っていたし、大石の腕は隊長格にも負けない手練れなのだ。

打ち損じるなんてなく、もしそうだとするならば大石は嘘の報告をしたということになる。


大石は間者だったのか?



「土方さんっ、大石さんは熊木さんに操られててっ、それでっ」

「はあっ? 熊木、熊木が関わってんのかっ?」


長州だけではなく、伊東とまで関わっていたのかと、土方は舌打ちすると、直ぐに行動に移そうとした。

まずは近藤に伝え、屯所の警戒を強めなければならない。


そして油小路に使いを出さなくては。


「わ、たしがっ油小路に行きます!」

「は? ちょっ…待ちやがれ!! 矢央おおっ!!」


矢央を掴もうとした手は虚しく空振り、矢央は素早く走り去って行ってしまい、後を追うことも出来ない土方はクソっと畳を踏みつけた。



「山崎っ! 俺は手が離せねえ!矢央を頼むぞ!」

「御意」



夜は更けていく。
雲行きは怪しくなり、矢央の進む道を照らしてはくれない。