伊東は相当酔っていたのだろう。
近藤が籠を呼ぶかと言ったが、機嫌が良い伊東は夜風に当たりながら月見をするのも悪くないと言い、千鳥足で近藤の下を去った。
伊東さん、こんな形で出会っていなければ、もっと色々とお話がしたかった。
ふらふらと闇に消えて行く伊東の後ろ姿を暫く見詰め、近藤はゆっくりと瞼を下ろした。
「副長、伊東の亡骸を七条油小路に遺棄して参りました」
「…そうか」
月夜を見上げていた土方に、伊東暗殺の役目をした大石鍬次郎が告げに来た。
大石ともう一人の隊士で伊東を襲ったが、流石に伊東もただでは死ねないと刀を抜き最後の力を振り絞り応戦したらしく、隊士一人が犠牲となった。
「流石だねえ。 さて、後はあいつらか」
己が画策したのに、いつも結果の後は虚しさが押し寄せる。
月夜に影が差し、土方の顔を曇らせる。
「…歳、上手くいったのか?」
そこへ帰って来た近藤がやって来ると、土方はいつもの厳しい顔付きに戻し頷いてみせた。
「伊東の奴、いったい何を企んでたのかねえ。 なかなか酔わねえから肝が冷えたぜ」
「ああ、だが上手くいったんだ。 あとは、永倉君達に任せよう」
「そうだな」
屯所の別の部屋では、沖田と矢央もまた月夜を見上げていた。
「大石さんが戻られたようですね。 どうやら上手くいったようです」
「じゃあ、これから…」
凄まじい夜が始まる。
計画は土方の思惑通り上手くいったのだから、あとは永倉達の帰隊を待つばかり。
「大丈夫、上手くいきます」
沖田は布団から出て、障子に持たれていた矢央の下へ行くと羽織を掛け隣に腰を下ろした。
風邪をひきますと、矢央が布団へ促すが沖田は首を振り動かない。
少しでも矢央の不安を取り除きたかった。
隣で月を見上げる矢央は、今にも消えてしまいそうな程に儚くて、そっと肩に触れればビクッと震え切なげに俯く。
「お茶、いれてきますね」
落ち着かなくては、何かしていたくて、矢央は沖田を残し部屋を去った。