「あったけぇだろ」
にっと口角を上げる永倉を、暫し時が経つのを忘れて見つめてしまった。
"あったけぇだろ"
何度も何度も、その言葉が脳裏を巡った。
「あ、新八ンなとこにいたか」
「おお、左之どうした?」
「いや、島原に行くって言ってたじゃねぇか! ほら、山南さんと平助も一緒に」
廊下の角を曲がって近付いて来る原田には、永倉が壁になり矢央の姿が視界には入らない。
ドカドカドカと次第に大きくなる足音に、矢央の止まっていた時間が動き出した。
「あっ……」
「そういやそうだったな。 すぐ支度するわ」
痛む手から温もりが放れて行くのが、妙な気分にさせる。
―――スゥー……
「あ、んじゃ矢央またな」
「あれ? 矢央いたのか?」
去り際にポンポンと頭を叩いて、原田を連れて廊下を歩いていく永倉。
「明里さんに会う口実に、なんで俺等込みの宴会にするかねぇ」
「ハハッ、照れ屋なんだよ。 俺等と違って」
「女好きな新八と一緒にすんな!」
「左之もだろぉが!」
小さくなっていく二人の会話に、やけに心が反応した。
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