「やはりおまさんら関わりがあったがか」



斉藤が新選組に戻って三日後の十三日、坂本龍馬の下を伊東が訪ねていた。

薩摩藩と密かに関わりを持っていた伊東は、坂本ににこりと綺麗な笑みを浮かべ、敵ではないと主張してみせる。


しかし坂本は、伊東の背後にまるで伊東の用心棒かのように佇む男を明らかに警戒しているようだ。


その男の名は熊木。

今は長州に身を置きながら、新選組や矢央に何かと仕掛けているこの男が坂本は信用ならないと思っている。


それは何故か。

何を考えているか分からない笑みを絶やすことなく坂本に軽く首を縦に下ろし挨拶する、端から見れば愛想の良さげな風貌。

しかし、その双眸は笑ってなどいないではないか。


「桂さんの次は伊東さんか? おまさん、いったい何を企んちゅうがか?」

「坂本殿、熊木殿は決して我々にとって悪い存在ではないですよ。 私を良き道へと誘ってくださる。 そして坂本殿に、お話しがあります」


それが怪しいのではないか。

伊東は勉が立つはずなのに、この男の話を鵜呑みに崇めている。


「新選組が坂本殿のお命を狙っているようです」


新選組が?

坂本の眉がぴくりと動いた。


「何故それを?」


確かに坂本は幕府から追われる身、だから幕臣である新選組が坂本を捕まえるのも分かる。

だが彼等が血眼になってまで坂本を捜し命を取らなくてはならない、とまでは思えない。

坂本は直接、新選組に害していないからだ。


捕らえるならまだしも命を狙われると言った発言は、俄に信用ならない。