ぶらぶらと庭に投げ出していた足を上げ廊下に立った矢央は、市村に両手を差し出した。

何だろうと、首を傾げる市村。


「それ燃やすんでしょ? ちょうど庭掃除しなきゃと思ってたし、その前にちゃっちゃと片付けちゃおう!」


どうやら手伝おうとしているらしいが、裾から見えている腕の傷や痣を見て市村は遠慮がちに首を振った。

矢央はもう隊士だ。
小姓の自分は兎も角、既に隊士となった矢央に手伝わせるのは気が引けた。


それに、このところ慣れない稽古をして疲れた様子をよく見かけていたので、せっかく休んでいたのにと、間が悪い自分を悔やむ。


「いえ、間島さんは休んでいてください!」


今度は矢央が首を傾げてみせる。


「えー、手伝うよ?」

「駄目です! 先輩にそんなこと…」

「先輩って、なんか照れるな。 って、そこは遠慮しないでよ? もともとこういう仕事は慣れてるし、それに」


問答無用と市村から荷物を奪い取れば、慌てる市村にニコッと笑ってみせて、


「一人より二人の方が楽でしょ!!」


楽だし早いし、その後は庭掃き手伝ってねー。と言う矢央に、市村はもう何も言えない。



「あ、あと年上には甘えなさーい! ほら行くぞ少年!!」


既に歩いて行く矢央を見てハッとし、慌てて沖田等に頭を下げて矢央の後を追って行く。


「まっ、待ってくださいよー!! それに、そっちじゃなくてこっちですからー!」

「え? あ、ごめんごめん!」

「もう、甘えろって言うなら、しっかりしてくださいよ?」

「あははは、はい、すんません」




楽しげに去って行った二人の姿を黙って見ていた三人は、誰かれともなく笑い出した。


「年上には甘えろってよ?」

「背は矢央のが小せえのに、しっかり姉ちゃんに見えるもんだな」

「鉄君のおかげで、矢央さんも楽しそうで何よりです」


三者三様の意見に、互いに頷き合った。

これまで大人に囲まれていた矢央にとって、市村は弟のような存在で、何かと構いたくなるのだろう。

その姿は微笑ましく、二人の姿を見ていると本当の姉弟のようで大人達もまた癒されるのだった。