その頃、沖田と山崎。


「っごほごほ!」

「沖田さんっ!?」


急に跪き咳き込んだ沖田に慌てて、山崎は沖田の背中をさする。

浅く呼吸を繰り返し次第に落ち着きを取り戻した沖田は、目尻に涙を浮かべながら山崎に「大丈夫です」と微笑む。


沖田の掌を見て、明らかにほっと安心した山崎に沖田も苦笑いし、のっそりと体勢を起こし柱にもたれ掛かった。



「…はあ、ねえ、山崎さん。 永倉さんは、やはりどうあっても矢央さんに刀を握らせたくなかったんですね」


青白い顔で僅かに汗を浮かべながら沖田は語る。


まだ話足りないのか、と思いながらも山崎も沖田の隣に腰を下ろした。


「それは、沖田さんや副長もやないですか?」

「…え? まあ、そりゃあ、女子が剣とはしっくりこないですからねえ」

「理由はそれだけちゃいますやろ」

「ええ、そうですね。 好いてる女子を、わざわざ危険に晒すなんて男としてはしたくない。 でも、彼女の居場所を奪う権利は私にはないんですよ」



長い睫が切なげに揺れた。

山崎はひっそりと息をつく。


此処には不器用な人間ばかりだ、と。



「それでもいつか。…いつかは、あいつも此処とはちゃう居場所を見つける時がくるんやないやろか」

「…そう、かもしれませんね。 だからね、山崎さん」

「はい?」


次に見た沖田は悪戯っ子のような笑みを浮かべ山崎を見ていた。

ああ、嫌な予感しかしない。





「その時まで私に自由をください。 あなたの仕事のことはわかります。ですが、腐っても私は新選組一番隊隊長沖田総司なんです。 この身体が病に啄まれても、この足で立てる間は近藤さんのお役にたち、そして彼女を守っていきたい」

「沖田さん…」

「私だって鬼の子なんです。 直ぐには死なせてもらえないでしょうし、ただで死ぬつもりもない。 私には私の役割があるんですよ。 
だから、山崎さんもう少し私を信じてくれませんかね」


山崎は流石だと思いながらも、どうしても不安がよぎってしまう。

労咳と言う病は気合いなどでどうとでもなる病ではない。

新選組にとっても、近藤や土方にとっても沖田総司という男は必要で欠けてはならぬと思っているからこそ、少しでも目の前の男を生き長らえさせたいのだ。


それには絶対安静。

しかし、それをこの男は望んでいない。





「大丈夫ですよー。 私は、まだまだ死にませんから」


そう言って微笑む沖田を、山崎はただ複雑そうな表情で見詰めることしか出来なかった。