井上に付き添ってもらい墓参りを無事に終えた矢央は、小腹が空いたという井上に連れられ甘味処へ来ている。

餡蜜を二人分頼み終え、改めて井上に礼を言った。



「今日は本当にありがとうございました! 源さんの貴重な休暇なのに、私に付き合ってもらって」

「いいさいいさ。 たまにはおじさんも、若い女子と出掛けてみたいのでね」



いつも若者に囲まれているから、なかなか誘えないだろ、と湯呑みを啜る井上。

井上は新撰組局長の近藤よりも年上で古株でもあり、穏やかな性格のため矢央も一緒にいると落ち着くのか笑顔が絶えない。



「源さんと、こうして二人で甘味食べるのも初めてですよね? なんか嬉しいなあ」

「そうだね。 私も嬉しいよ。 そう言えば、出掛ける支度をしている時、永倉君が矢央君を捜していたようだけど、何か約束でもしてた?」

「約束? いいえ、特に何も。 なんだろう?」


土方や永倉が矢央を捜すと決まって何か仕出かした時が多いため、矢央の顔はみるみると青ざめていく。

最近はヘマはしてないはずなのに、思い当たる節がないわけでもないので屯所に帰るのが気が重くなってくる。



「ははは、そんな怖がらなくても大丈夫さ。 あの顔は叱るためのものではなかったよ」


あれかこれか、と思考を巡らしていて、せっかく注文した餡蜜に手をつけない矢央に安心させ餡蜜を勧める。


思い出したように急いで餡蜜を食べ始めた矢央を優しく見詰めながら、井上も再び餡蜜を頬張った。