「墓参りなあ。 どうしても今がいいのか?」


煙管をくわえ眉間に皺を寄せる土方の前に、朝餉を済ませて直ぐ現れた矢央。

最近は滅多に土方の自室に来なくなった彼女が現れたので何事かと思い尋ねると"墓参り"に行きたいと言い出した。



「そろそろお盆だし、毎年報告しに行ってたから」


土方としてはこの話題少し頭が痛くなる。

矢央にとっては大切な人、芹沢と山南の墓参りだったが、その彼等を墓に入れたのは紛れもなく己だ。

だからと言って後悔するわけではないが、文机に視線をやって土方が渋る理由はそこにあった。



「俺や近藤さんも此から用があるし、総司は…まあ駄目だな。 んでも、永倉は仕事だしな」


矢央の外出は決まって誰かと一緒でなくてはならず、矢央の素性を知っていて腕が立たなければならない。


山崎や原田も任務で出払ってしまうため、本日矢央に付き添える人間がいないではないかと困っていると。



「…なんだい、矢央君は何処か出掛けたいのかな?」


そこへたまたま通り掛かった男は、目尻に皺を寄せ優しげな眼差しで矢央を見下ろしていた。


声の主に反応して振り向き見上げると、矢央も困った顔で頷いている。



「…源さん。 そうなんですが、私に付き合ってもらえる人がいないみたいで」


"源さん"こと井上は、それはおかしいとにこっと微笑む。



「いるじゃないか、ここに。 私は今日非番だからね」



そう言うと、矢央は本日の天気にも負けない程の晴れやかな笑みを浮かべた。

そして土方も、そんな矢央を見てほっと胸を撫で下ろす。



「…すまねえな、源さん。 矢央のこと頼んだ」


「構わないよ。はい、任されました」