「熊木殿のことは、俺もどうにかしようと思うちょるき。 矢央おまんは、どんな手を使っても生き抜け」

「あんたの心配にはいらねえ。 俺達がついてるんでな」


坂本に見せつけるように、矢央の肩を抱く永倉をまじまじと見やる。

そして面白そうに頷く坂本は、顔を赤らめる矢央の耳許に顔を寄せ。



「おまんも罪作りな女子じゃき」


ニヤリと笑い離れた坂本を、また睨む永倉。


そして矢央も何かにつけて言ってやろうと顔を上げたが、夕日に顔を向け赤く染まるその姿を見て口を開けなかった。


胸を締め付ける切ない感情。


坂本はこれが最後になってもと言った。

そして、矢央は新撰組に残ることを選んだ。


つまり、これが本当に坂本との別れを意味していたのだ。




「矢央」


そんな悲しそうな声色で呼ばないでほしい。


「これが最後になる…んじゃろうな。うん、最後におまんの元気な姿が見られて良かったぜよ」

「坂本、さん…。 今まで、ありがとうございましたっ」


泣いてはならない。

これは悲しい別れではないのだと、矢央は必死に笑みを貼り付ける。



決して忘れない。
日の本を変えるこの坂本龍馬という偉大な男の姿を。


夕日に染まる笑顔はゆっくりと頷き、




「矢央、達者でな。 さらばぜよ!!」




ばっと腕を上げて、坂本は笑顔のまま走り去って行く。



「っ!! 坂本さーんっ、どうかっどうかお元気でっっ! さようならー!!」





歩む道は違えど、友だと笑いあった少ない時間を矢央は決して忘れないと誓う。


小さくなっていく、その大きな背中を決して忘れはしない。














「坂本さん…さようなら」



これが生きた坂本龍馬を見た最期となった。