いつかこの時が来るのは分かっていた。

幾ら歴史の勉強を怠っていても、平成の世に生きていた矢央は幕府が滅び新撰組が消えて行くことくらい知っている。


彼らがどんな運命を辿り、そしてその生涯を終えるのかなんて分からないし、今知りたいとも決して思わない。



「その顔は、やはり知っとったな?」


未来からやってきた矢央がこの事を知らないはずがないと分かっていたからこそ、坂本は今この場にいる。

助けたいから。

友であった岡田以蔵が大切にしていた矢央を、死ぬかもしれない環境に置いておけるはずがなかった。


仲間に止められながら、それを押しきり説得しに来たのだ。



「いつか新撰組がなくなることは、知ってます」

「だったら、俺と来るぜよ。 矢央の身の安全は桂さんが保証してくれた。 だから安心して…」

「桂さん、ですか。 だったら余計に行けない。 坂本さんは大好きです。 坂本さんの言う通り、そっちに行けば安全かもしれないけど、でも私は私の意思で新撰組にいたいんです」


もう誰に何を言われようが揺るがない。

新撰組と離れないと決めた。



「桂さん、否、あの男のことを気にしちょうがか?」

「それもあります。 あの人とは、きっと近いうち戦わなきゃ駄目なんだと思ってます。 でも、それと新撰組から離れないのは、また別ですよ」


にこっと微笑む矢央の姿に、坂本は諦めに似た笑みを浮かべる。


「やはり無理か。 いや、きっと矢央は新撰組に残ることを選ぶと思ってたぜよ」

「だったらなんで、わざわざ危険なのに…」

「もう一つ、おまんに伝えたかった」



そこで坂本は永倉を呼んだ。
何事かと不信がりながらも、二人の下へやってきた永倉を見て坂本は言う。



「熊木殿は、多分未来が見えているぜよ」

「なっ!? それじゃあ丸っきり…」

「お華さんと同じ…」


驚きを隠せない二人に、坂本は尚も続けた。



「桂さんが幾度も危機を潜り抜けていたのは、どうやらあん男が助言していたからみたいき。そして、おまんら新撰組が長州藩をやっつけた池田屋のことも、熊木殿が裏で仕向けたこと」


「それって、あの池田屋事件は熊木さんのせいで起こったってことですか?」


「ああ、あの頃は長州藩も内部で意見が別れていたらしくてな。 過激派の連中をどうにかして止められんかと桂さんは熊木殿を頼った。 その結果があれじゃあ」